第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

援助機器

[PL-1] ポスター:援助機器 1

2023年11月10日(金) 15:00 〜 16:00 ポスター会場 (展示棟)

[PL-1-2] 3Dプリンタで制作した書字の自助具使用が成功体験につながった小児脳腫瘍術後患者の一事例

高田 善栄1, 遠藤 幹秀2 (1.総合南東北病院リハビリテーション科, 2.星ヶ丘病院リハビリテーション科)

【はじめに】小児脳腫瘍術後に右片麻痺を呈し,劣等感がみられた事例に対して,3Dプリンタで制作した自助具を用いた書字動作獲得に向けて介入を行った.その結果,成功体験から自尊心が高まり,非利き手での書字動作獲得に至ったので以下に報告する.尚,報告にあたり書面にて本人と母親の同意は得ている.
【事例紹介】10代前半の女性.右利き.通常学級在籍.他県在住で5人家族(本人,母親,祖父母,姉)である.診断名は,血管周皮腫. X−2年に腫瘍摘出術施行.X年Y−4月左外転神経麻痺出現.手術目的にY月当院入院.入院期間中は母親が付き添いをしている.術前評価は独歩でADLは自立していた.腫瘍切除術施行後に左中大脳動脈の血管攣縮あり,左減圧開頭術施行.術後評価は,失語や右片麻痺があり,起居動作は全介助であった.Y+1月には介助下での歩行練習やトイレ動作練習を行うまで回復がみられた.STの失語症評価で書字の確認を行った際に左手で思うように字を書けないことに対して苛立ちがみられた.また,感情失禁があり,些細なことで泣いてしまうことがあった.Y+2月頭蓋形成術施行後に頭痛出現.Y+3月人工骨除去となり,その後は頭痛を訴えることはなかった.
【書字介入前の評価:Y+4月】身体機能は,Brst上肢Ⅱ手指Ⅱ下肢Ⅲ.握力は右0kg,左18kg.言語面は単語レベルの表出や理解は可能であった.起居動作や座位保持は自立し靴の着脱も可能であった.トイレ動作は母親の接触介助で可能でFIMは71点(運動項目46点認知項目25点)であった.母親の希望で回復期病院へ転院ではなく,自宅退院方向となった.在宅復帰に向けて支援を行う中で母親よりできることを増やして欲しいとの希望が聞かれ,コミニュケーションの手段の獲得や成功体験から自尊心を高めることを目的に非利き手での書字動作への介入を行うとした.
【介入経過】書字に対する失語の影響は少なく,自発的に単語を書くことは可能であった.しかし,鉛筆の把持はⅠからⅣ指の指尖で持っており,手関節の固定が不十分のため筆圧も弱い状態だった.太柄では,鉛筆と手の間に空間ができてしまい,書きにくいとの訴えだった.そこで,鉛筆に取り付ける持ち手部分の自助具をⅣ,Ⅴ指で把持し,鉛筆をⅠからⅢ指で把持することで,手関節の固定性が図れると考え,3Dプリンタで自助具を制作した.使用機器はTRONXY製3Dプリンタ.素材はABS .CADソフトはAutodesk Tinkercad.スライダーソフトはUltimaker Curaを用いた.自助具の鉛筆の挿入部は固定性を高めるために,鉛筆の形状に合わせ六角形で制作した.持ち手の部分はMP関節の幅の長さとした.
【結果】自助具での書字動作は,鉛筆はⅠからⅢ指で把持が可能となり,筆圧も高く文字を書くことが可能になった.感情失禁は無くなり,介入時間以外も自主練習として母親と一緒に書字練習に取り組むようになった.言語の表出は単語レベルであったが,意思疎通も書字を用いて行うことがみられた.
【考察】King ら(2017)は,小児脳腫瘍は,同朋と比較し,学習や社会的自立などに影響を及ぼすと述べ,さらに本事例は,術後に右片麻痺を呈してしまった.術後から母親への依存が強く,また,できないことを他者にみられたくないという劣等感がみられた. 3Dプリンタで制作をした自助具での書字は,手に馴染んだ鉛筆の持ち方で字を書くことが可能となった.この成功体験を経験したことで,自尊心が高まり,自主練習やコミュニケーションの手段として書字を用いることができたと考えられた.成功体験を引き出すためには,モデリングが容易である3Dプリンタの自助具制作は有効な手段の一つだと考えられた.