第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

援助機器

[PL-1] ポスター:援助機器 1

2023年11月10日(金) 15:00 〜 16:00 ポスター会場 (展示棟)

[PL-1-5] ALS者のための患者立脚型コミュニケーションアプリの開発

大寺 亜由美1, 高橋 香代子2, 荻野 美恵子1,3 (1.国際医療福祉大学市川病院神経難病センター, 2.北里大学医療衛生学部, 3.国際医療大学医学部)

【はじめに】我々は,これまで患者及び家族が抱えるニーズを調査した上で患者立脚型コミュニケーション支援アプリを開発し,健常者を対象に有用性評価を実施した.本研究ではALS患者を対象とし,その有用性を検討することを目的とした.本研究は倫理委員会の承認を得て実施している.
【開発したアプリの特徴】開発した新型アプリは,スイッチ入力・視線入力共に編集したTobii communicator5(株式会社クレアクト)を使用し,その特徴は,スイッチ入力画面では入力速度の向上を図るため空白を削除し,文字を大きくみせるために細枠にし,視線入力ではスイッチ入力と同じ50音表記のレイアウトとした.
【方法】対象は,2021年10月から2022年6月までに入院したALS者4例(男性1例,女性3例),年齢幅は40歳代から70歳代までであった.ALS Functional Rating Scale- Revised(ALSFRS-R)の総得点は4点から23点,球症状の項目は3点から12点であった.1例は発話可能,1例はマウス操作での文字入力と発話の併用,2例はスマートフォンやタブレット端末のアクセシビリティ機能でのスイッチコントロールにて文字入力を用いていた.
方法手順としては,①実験前準備:環境設定は1例は車椅子座位,3例はベッド上背臥位とした.PC固定台を用い装置を固定し,患者の正面に機器を設置した.スイッチ入力で用いる入力装置の選定は,事前に担当療法士より誤作動がなく正確に入力できる装置の情報を得て行った.②アプリ操作:機器の調整後,従来型アプリ(TCスキャン,株式会社クレアクト)と新型アプリの操作を行った.課題はランダムな平仮名20文字の文字入力を実施した.効果指標としては,それぞれの機器体験後に,使用感,疲労感,スイッチ操作から視線入力への移行に伴う違和感等をVisual Analog Scale(VAS)で評価した.文字入力の操作性では,入力所要時間,入力速度,正誤率を測定した.また,自由回答にて対象者の感情面に対しても聴取した.
【結果】
1)使用感と基礎属性/操作性の関連:2例は従来型を好み,2例は新型を好む結果となった.従来型を選択した症例はALSFRS-Rの球症状の項目が高値の傾向であり,実用場面でのコミュニケーションは発話又PCのマウス操作と発話の併用の特性を持った.逆に新型を選択した症例は,ALSFRS-Rの球症状の項目が低値を示し,つまり球症状がより重度の症例であり実用場面でのコミュニケーションはスイッチコントロールで行う特性がある.文字入力の操作性との関連は,健常者のデータ(大久保,2020)と比較するとスイッチ入力の傾向は4例共に同等であった.一方で視線入力に関しては,新型を選択した1例が,従来型と比して,新型の文字入力の所要時間を要して入力速度は遅い結果となり,他3例は視線入力も健常者と同様の傾向であった.
2)自由回答:移行の違和感では,従来型を選択した2例は「慣れるまでそういうものだと思う」,「従来型を練習して新型に移行すればよいのではないか」と現状の機器を受け入れる感想が聞かれた.また,新型を選択した2例は,開発した新型アプリに対して「文字が探しやすい」,「練習を少しすると入力が出来て,反応がしやすくなった」,「長い文章が早く打てるのは良い」と前向きな感想が多く聞かれた.
【考察】今回の当事者4例の操作体験より,スイッチ式の機器を用いて生活している当事者は我々が開発した新型アプリに好感触を示すことが分かった.ただし,従来型より新型の方が入力効率は低値を示した症例でも新型に好感触を持った結果となっており,今後はより入力効率が高く,操作が簡易な文字入力が出来るアプリに改良する必要性がある点も明らかになった.