第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

援助機器

[PL-2] ポスター:援助機器 2

2023年11月10日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (展示棟)

[PL-2-1] 手指機能改善に対応したカトラリー把持支援スプリントの開発とその要諦

小森 健司 (社会医療法人蘇西厚生会 松波総合病院リハビリテーション技術室)

<はじめに>
 手指機能に障害がありカトラリーの把持が困難な方に対して現状一般的には万能カフ等の自助具が用いられている.これにより手指機能障害が重篤に存在しても,一定のカトラリー把持が実現出来,摂食動作が自己遂行可能となる事はこの道具が一定の手指機能障害に対する機能補完を達成していると言える.但し,万能カフの場合装着した状態での摂食動作は前腕が回内位を強制されることをはじめとし一般的な摂食動作と異なる動作形態での遂行となり,当該使用者の手指機能が順次改善していく場合においてその回復に合わせて徐々に手指機能を活用する状況を考えた時には,段階的に生ずる機能改善に追従した機能補完は果たせない道具であると言える.
<解決すべき課題点>
 手指機能の段階的な回復にどの状況であれ対応可能なデザインが理想的であり一貫して一般的な把持形態が実現可能なデザインであることが望ましい.カトラリーは適切に洗浄等衛生管理が可能なようにスプリントから脱着可能な仕様でなければならない.カトラリーの固定は食器からの食品の掬い上げを円滑なものとするべく支持性と可撓性が適切に両立する機構でなければならない.具体的にはカトラリーの固定性が不良でそれが脱落するようでは不適切であり,また,固定が強固であることで粘性のある食材等の掬い上げ時に使用感が不良となり,障害によりただでさえ困難な摂食動作遂行がより避けたくなるものとなるようでは問題である.あくまで道具の使用感がより上質で対象者がその使用に主体的に向かえるものであるべきである.
<開発したカトラリー把持スプリント>
 適切な把持形態を確保するためには固定具の開発とその固定具が適切な把持形態を満たす場所に接着できる必要があった.スプーン等のカトラリーは150〜200mm程の長尺物であり,食品と触れる匙部と柄で構成されるわけであるが,把持形態を考慮するとおそらく固定部は柄の尖端とすることが現実的であった.
 開発はまずはカトラリー固定部材から進めた.病院や施設等では多くの場合備品として同一のカトラリーを用いている.簡単な脱着が可能となれば通常の食器洗浄プロセスに包含した運用が可能である.確実な固定性と可撓性を両立する構造とする為,カトラリーの柄を近位2か所で固定する構造を採用した.この2か所の固定部を左右に可撓する部材で連結することで確実な固定とより上質な使用感を実現した.この固定部材をMCP屈曲固定型コイル式スプリントや平行棒式手関節背屈スプリントの橈側部でかつカトラリーの適切な把持形態を実現可能な位置に接着することで課題解決を果たす仕様を実現した.
<まとめと今後の課題>
 開発したスプリントは手指の自動運動がほぼ皆無の状態から徐々に機能化が進んでいく状況までほぼ全てのフェイズで効果的な使用が可能なものとなった.また,固定部はカトラリーの最遠位部に限局している為,市販の太柄スポンジの併用も可能である.2か所の固定部が確実にカトラリーを固定し,かつ可撓性を有することで食器や食材との接触感がより自然な状況を実現している.
 但し,現状の仕様では全てポリフォーム(スプリント材)を用いて作製されており,カトラリー固定部の作製難度は高い.今後カトラリー固定部を3Dプリンタ等AM装置を用いて作製することで作製難度を低下させ得ると思われた為,プリンタ素材とスプリント材とのマッチングや耐久性等評価を進めていく方針である.