第57回日本作業療法学会

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ポスター

援助機器

[PL-2] ポスター:援助機器 2

Fri. Nov 10, 2023 4:00 PM - 5:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PL-2-4] 上肢に対する重錘負荷が可動椅子における運動パターンに与える影響

中谷 優太1,2, 中村 裕二3, 梅田 信吾4, 仙石 泰仁3 (1.札幌医科大学保健医療学研究科作業療法学専攻感覚統合障害学, 2.子ども支援ルーム, 3.札幌医科大学保健医療学部作業療法学科, 4.社会福祉法人クピド・フェア パシオ)

はじめに
 生活の基盤となる上肢動作として,前方へのリーチ動作が挙げられ,動作に伴う体幹と骨盤の前傾が必要である.我々は,体幹の前傾運動を補助するコンセプトを持つ椅子として,前傾かつ前方移動する椅子を開発している.これまでの報告(中谷ら2021)では,単純リーチ動作に与える影響として,椅子が動かない条件と比較し,筋活動には差がないものの体幹の屈曲角度及び回旋角度が減少できることを示してきた.リーチ動作の目的としては,上肢を操作対象まで運搬することであり,手そのものを運搬しその後操作対象を用いて作業を行う,または道具把持して操作対象まで運搬しその後に道具を使用して作業を行うなど様々な場面が想定される.
 本研究では,可動椅子を用いた道具の運搬を想定し,上肢に重錘負荷を与えた際の運動学的特徴を筋電図と二次元動作解析から明らかにすることを目的とした.
方法
対象者は20から30代の健常成人5名とした.動作課題は前方リーチ課題とし,上肢長130%の位置にリーチ動作を5回行った.条件は,上肢負荷なし(0kg),負荷あり0.5kg,負荷あり1.5kgの3条件とした.また,椅子条件としては2条件を設定し,可動椅子条件(以降可動条件)と動かない椅子として一般的なパイプ椅子を使用した(以降固定条件).評価指標として,動作解析と表面筋電図の2指標とした.動作解析では,矢状面からデジタルビデオカメラで撮影し,頸部屈伸角度,体幹の前後傾角度,肩屈曲角度,肘関節伸展角度,手関節背屈角度を求めた.分析はリーチ動作の開始から目標物に到達するまでとし,開始肢位と到達時の角度の差の平均値を算出し,変化量とした.表面筋電図の導出筋はリーチ側の三角筋前部線維と,両側の外腹斜筋,腰部脊柱起立筋,大腿直筋とした.分析では最大筋力を基準とし,条件毎に%MVCを算出し,平均振幅値を求めた. 本研究は札幌医科大学倫理委員会での承認を得て実施した.
結果のまとめと考察
 動作解析について,重錘負荷の増加に伴う椅子条件内での体幹前傾角度変化量は同程度(可動条件負荷なし:14.5度,負荷あり1.5kg:14.4度,固定条件負荷なし:14.5度,負荷あり1.5kg:14.4度)であり,リーチ動作パターンの違いは見られなかった.
 表面筋電図においては,固定条件では負荷なしと負荷あり0.5kgにおいては,同程度の値であり,負荷あり1.5kgでは右大腿直筋と左脊柱起立筋の活動量が増加した(それぞれ,11.7%,1.8%).可動条件では,負荷あり0.5kgから右大腿直筋と左脊柱起立筋の増加が見られ(それぞれ,4.6%,0.65%),負荷あり1.5kgではさらに増加が見られた(それぞれ,16.8%,2.3%).筋活動のタイミングでは,右大腿直筋の活動が動作開始直後に大きいことが確認された.
 このように,固定条件での負荷あり1.5kg時の筋活動,可動条件の重錘負荷の増加に伴う筋活動の増加は,右大腿直筋の増加率が高く,それは課題の開始直後にみられていた.これらの変化は両条件ともに物体を運搬する負荷が強まることで体幹屈曲自体に必要な筋活動が高まったことと関係していると考えられた.さらに可動条件では,課題開始初期に椅子を駆動するための筋活動も必要であったため,固定条件における右大腿直筋の増加率よりも高かったことが示唆される.
 今後の展望として,前方リーチ動作に伴う体幹屈曲の初動をサポートするような改良を実施することで可動椅子の効果をより高めることが可能になることが考えられる.