[PL-3-3] 重度四肢麻痺者に対するパソコン入力支援装置の検討
【緒言】
重度四肢麻痺者は,随意的に動かせる生活全般に際して他者の支援を要すことが多い.近年ではパソコンやスマートフォンなどの通信デバイスが発達し,環境設定や物品の工夫によって操作獲得が見込めるようになった.今回,パソコン操作の獲得に向けて残存機能を活かした物品制作・操作練習を行い,文書入力が可能となった事例を経験したため,その経過を報告する.
【事例】
既往の無い20歳代男性,独居,営業職.発症数日前に急性胃腸炎あり,階段昇降時の胸部痛が増悪してA病院に搬送.その後B病院にて劇症型心筋炎と診断.翌日に呼吸状態悪化し人工呼吸器管理を開始.3病日目からVA-ECMOを開始し15病日目に離脱.経過からギラン・バレー症候群の診断.156病日目にリハビリテーション目的でC病院回復期病棟に入棟.同日よりOT開始.演題作成にあたり,「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」を遵守し,本人の同意を得た.
【経過】
入院時は,感覚機能は保たれているが頚部以下は随意運動困難.頚部もシャキアは困難.端座位保持は全介助.気管切開,ADL全介助.171病日目に装着時間限定で発声用バルブ及びスピーチカニューレへ変更,209病日目にカニューレ計画抜去.常時,音声表出が可能となった.PTと協力し離床機会増加を図った結果,普通型車いす乗車が可能となったため,パソコン操作環境を模索.視線入力センサー(TobiiEyeTracker5)を使用してマウス操作を試みたが,熱中するあまり眼球運動と共に頚部運動も伴ったため視線入力操作は不安定であった.そこで,市販マウスを上下反転し(LED照射部が上方),フレキシブルアームで下顎付近にマウスを配置して顎関節及び頚部運動でポインティング操作,さらにマウス内部基盤の左右クリック端子からマイクロスイッチをそれぞれ外付けし,両頬の横にスイッチを配置して頚部側屈で左右クリック操作ができるようにした.PC画面にスクリーンキーボードを表示し,インターネット検索や文書作成の獲得に至った.スイッチの付加はメーカー保証の対象外になることを説明し同意を得て作成した.スイッチの付加による機器の不具合はなかった.
【考察】
四肢麻痺者のパソコン操作手段としては,意思伝達装置や視線入力装置が代表的なものとして挙げられ,個別性の高いデバイス自体の工夫に関する報告は少ない.しかし,本事例は入院の経過から頚部の支持性や可動性が改善し,視線入力装置への適合に苦慮した.ここで,視線入力装置の操作習熟を図る支援から,頚部の可動性を活かして入力デバイス自体を工夫する方法へとアプローチを変更したことにより,本事例に適したマウス操作方法を確立することができたと考える.
【結語】
本事例は急性期での経過が長く,回復期入棟当初は離床どころかコミュニケーションを図ることから課題が生じていた.リハ職が関わる中で離床が可能となり,音声でのコミュニケーションが可能となったことから生活上での支援は得られやすくなったが,通信デバイスの操作は常時支援を要する状態であった.音声操作でのスマートフォンの操作は概ね確立した上で,将来的な復職を見据えてパソコン操作におけるデバイスを選定し,入力する時間は要するものの,操作環境を提供でき,操作方法の習得に至った.現代社会において,四肢麻痺者のパソコン操作の獲得は在宅での就労の幅を拡げることに繋がる.回復期病棟において,ADL獲得・介助量軽減だけでなく社会との繋がりが得られるような支援が必要とされていると感じる事例であった.
重度四肢麻痺者は,随意的に動かせる生活全般に際して他者の支援を要すことが多い.近年ではパソコンやスマートフォンなどの通信デバイスが発達し,環境設定や物品の工夫によって操作獲得が見込めるようになった.今回,パソコン操作の獲得に向けて残存機能を活かした物品制作・操作練習を行い,文書入力が可能となった事例を経験したため,その経過を報告する.
【事例】
既往の無い20歳代男性,独居,営業職.発症数日前に急性胃腸炎あり,階段昇降時の胸部痛が増悪してA病院に搬送.その後B病院にて劇症型心筋炎と診断.翌日に呼吸状態悪化し人工呼吸器管理を開始.3病日目からVA-ECMOを開始し15病日目に離脱.経過からギラン・バレー症候群の診断.156病日目にリハビリテーション目的でC病院回復期病棟に入棟.同日よりOT開始.演題作成にあたり,「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」を遵守し,本人の同意を得た.
【経過】
入院時は,感覚機能は保たれているが頚部以下は随意運動困難.頚部もシャキアは困難.端座位保持は全介助.気管切開,ADL全介助.171病日目に装着時間限定で発声用バルブ及びスピーチカニューレへ変更,209病日目にカニューレ計画抜去.常時,音声表出が可能となった.PTと協力し離床機会増加を図った結果,普通型車いす乗車が可能となったため,パソコン操作環境を模索.視線入力センサー(TobiiEyeTracker5)を使用してマウス操作を試みたが,熱中するあまり眼球運動と共に頚部運動も伴ったため視線入力操作は不安定であった.そこで,市販マウスを上下反転し(LED照射部が上方),フレキシブルアームで下顎付近にマウスを配置して顎関節及び頚部運動でポインティング操作,さらにマウス内部基盤の左右クリック端子からマイクロスイッチをそれぞれ外付けし,両頬の横にスイッチを配置して頚部側屈で左右クリック操作ができるようにした.PC画面にスクリーンキーボードを表示し,インターネット検索や文書作成の獲得に至った.スイッチの付加はメーカー保証の対象外になることを説明し同意を得て作成した.スイッチの付加による機器の不具合はなかった.
【考察】
四肢麻痺者のパソコン操作手段としては,意思伝達装置や視線入力装置が代表的なものとして挙げられ,個別性の高いデバイス自体の工夫に関する報告は少ない.しかし,本事例は入院の経過から頚部の支持性や可動性が改善し,視線入力装置への適合に苦慮した.ここで,視線入力装置の操作習熟を図る支援から,頚部の可動性を活かして入力デバイス自体を工夫する方法へとアプローチを変更したことにより,本事例に適したマウス操作方法を確立することができたと考える.
【結語】
本事例は急性期での経過が長く,回復期入棟当初は離床どころかコミュニケーションを図ることから課題が生じていた.リハ職が関わる中で離床が可能となり,音声でのコミュニケーションが可能となったことから生活上での支援は得られやすくなったが,通信デバイスの操作は常時支援を要する状態であった.音声操作でのスマートフォンの操作は概ね確立した上で,将来的な復職を見据えてパソコン操作におけるデバイスを選定し,入力する時間は要するものの,操作環境を提供でき,操作方法の習得に至った.現代社会において,四肢麻痺者のパソコン操作の獲得は在宅での就労の幅を拡げることに繋がる.回復期病棟において,ADL獲得・介助量軽減だけでなく社会との繋がりが得られるような支援が必要とされていると感じる事例であった.