第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

援助機器

[PL-5] ポスター:援助機器 5

2023年11月11日(土) 15:10 〜 16:10 ポスター会場 (展示棟)

[PL-5-1] 自作ポータブルスプリングバランサーにより食事動作が獲得できた一例

海野 淳輝, 片岡 信宏, 伊東 直生, 小林 優里奈 (水戸済生会総合病院リハビリテーション技術科)

【はじめに】
 ポータブルスプリングバランサー(以下PSB)は,3次元空間で上肢を補助する器具である.調整により上肢操作性の自由度は非常に高くなり,わずかな腕の動きで机上動作等の目的動作が可能となる.
 今回,四肢麻痺・感覚障害を呈し「右手で食事を食べたい」と希望する症例に対し,既製PSBを使用したが,上肢操作性の自由度が高いことに加え,可動範囲が広いため,右上肢位置の把握が難しく食事動作の介助量に変化が認められなかった.そのため,長崎北病院にて考案されたPSBを改変し当院用に自作PSBを作成した.可動範囲を限局,さらに上肢操作を阻害しない程度のゴム張力の抵抗を付加し支援した結果,食事動作の獲得に至ったため以下に報告する.なお,今回の発表に際し症例本人に書面にて説明し,口頭で同意を得ている.
【症例紹介】
80歳代男性.既往に慢性関節リウマチがある.要介護5.X-1年に当院で頸椎症性頚髄症(以下CSM)に対して椎弓形成術を施行,その後サービス付き高齢者向け住宅に入所した.X-1月より四肢の動きが乏しくなり当院受診,軸椎下亜脱臼の診断となった.手術目的でX-5日に当院へ入院,X日に後頭骨頸椎胸椎固定術0-T3後方固定術を施行し,翌日よりリハビリテーションが開始となった.
【経過】
①:既製PSB導入(X+16日)
関節可動域(以下ROM)肩屈曲140°/125°,肘屈曲135°/130°.徒手筋力テスト(以下MMT)三角筋2/1,上腕二頭筋3/1,上腕三頭筋2/1,回外筋2/2,回内筋2/1,手関節掌屈筋2/0,背屈筋3/0,手指屈筋3/0,伸筋3/0.感覚表在感覚・深部感覚が重度~中等度鈍麻.右上肢にPSBと手関節保持装具を装着し,食事動作練習を開始した.頸部はソフトカラーで固定され前屈ができず,大きく開口ができなかった.食物をすくう際に上肢が揺れてしまい,本人より「難しい」「手の位置が分からない」との発言が聞かれた.
②:自作PSB導入前評価(X+35日)※変化点のみ記載.
MMT上腕三頭筋3/1,手指屈筋4/3,伸筋3/3.ADLはBarthel Index(以下BI)5点(移乗5点),Functional Independence Measure(以下FIM)運動項目で13点.
右上肢に自作PSBと自助具スプーンを装着し,食事動作練習を再開した.上肢の揺れは軽減し本人より「腕の位置がわかりやすくなった」「結構食べられる」との発言が聞かれた.病棟とも連携し,本人の疲労度に合わせて毎食自作PSBで食事が開始となった.
【結果】(X+43日)※変化点のみ記載.
MMT三角筋2+/2,上腕二頭筋3/3,上腕三頭筋3/3,回内筋3/2,手関節掌屈筋3/2,背屈筋3/2,手指屈筋4/3,伸筋3/3.ADLはBI10点(移乗5点,食事5点),FIM運動項目18点(移乗2点・食事5点)となり, 自作PSBを使用し毎食8〜9割程度の自力摂取が可能となった.
【考察】
 今回,食事動作に特化した補助機能を付加した.可動範囲を限局することで上肢位置が視覚情報から得られやすく,さらに上肢操作時においてゴム張力による適度な抵抗感により固有感覚機能に対して刺激となり上肢位置を把握するための環境情報の一部になったと考える.また他職種でもセッティングが簡便なため,病棟の受け入れも良く,病棟ADL(食事場面)の環境要因にも波及が可能であった.その結果,食事動作の練習量が増加し食事動作の獲得に繋がった.
 近年,高齢化に伴い61歳以上の脊髄損傷者の割合が増加しており,既製PSBの複雑な動きの理解が難しい高齢患者に対して自作PSBは簡便で扱いやすいく導入がしやすいのではないだろうか.