[PL-6-3] リコーダー演奏に向けた片麻痺児への関わり
【はじめに】
小学校3年生になると,学校ではリコーダーを使った音楽の授業が始まる.誰もが上手く弾きたいと願い,身体機能に障害がある場合でもその思いは変わらず,友達と同じように演奏したいと思っている.上肢に麻痺がある場合は音孔を塞ぐことが難しく,限られた音での演奏に留まり一曲の演奏に至らないことも少なくない.今回他職種と協同し,通常のリコーダーの工夫を幾度も繰り返し,最終的には特殊リコーダーの導入により,一曲の演奏が可能になった片麻痺児への関わりについて報告する.なお発表に際し,文書と口頭にて説明を行い,本人と家族の承諾を得た.
【症例紹介】
10歳の胎生期発症の脳梗塞による左片麻痺児.アプローチ開始時は8歳で,上肢機能はBr’s-stage上肢Ⅴ,手指Ⅵで上肢の空間保持や操作は可能で,手指は母指と第5指までの対立は可能であった.認知機能面には問題はなかった.ADLは独歩可能で全ての動作が独力で可能であった.初回評価時のリコーダーの保持は,下唇と健側上肢と麻痺側上肢で不安定ながらも可能ではあったが,両上肢のバランスの取れた支えは困難であった.またリコーダーが右側に回転し,頭部管に対して中部管と足部管が左へ変位し,しっかりと音孔を塞ぐことができなかった.本人からもあきらめの声が聞かれ,演奏への集中も続かなかった.
【アプローチ経過と結果】
月1回の外来で計16回の介入を,本人の演奏に対する意欲が無くならないよう段階的に進めた.まずは両手での音孔の押さえと安定したリコーダーの支えを目指し,健側と麻痺側の手指を音孔に誘導するガイドと,安定した保持や演奏に適した構えが作れる胸受けの補助具を3Dプリンタで作製した.ガイドは実際に演奏をしながら,高さやガイド上部にストッパーを追加するなど構造の見直しを重ね,なんとか音孔の押さえが可能になった.胸受けは胸骨部に添わせてリコーダーの角度が変えられる構造とし,安定した音出し,構え,保持が可能となった.介入を重ね10回目には低音のミまでの音が弾けるようになり,継続して出せるようになった音での演奏など本人のできることをサポートすることで,演奏への興味関心が途切れずに演奏練習を続けた.しかし低いレとドを弾くことができず,一曲の演奏は難しかったため,外側の筒をスライドさせて内側の筒に空いた音孔を塞ぎ,音を出すことができるスライドリコーダーを提案した.導入にあたり,本人にリコーダーの操作方法や吹く力の調整による音出し方法などを説明し,演奏体験を行なった.そして本人の希望により導入を決定し,真鍮管で本体を,その他のパーツは3Dプリンタを用い作製した.口元の形状はリコーダーの息づかいで音が出せるように同等の形状とし,操作時左右の非対称の構えとならずに操作とリコーダーの保持ができるよう持ち手を作製した.その後,自宅での練習や授業での使用を重ねて一曲を演奏できるようになり,音楽のテストで課題曲を弾くことができ合格することができた.
【まとめ】
今回,付属部品の作製による通常のリコーダーでの演奏には至らなかったが,アプローチ過程において,まずは通常のものをできる限り使えることを目指すなかで,演奏に対する興味や関心を高め,演奏時の息づかいや構えなどの基本的な技能を習得することが必要であると感じた.安定した演奏時の基本的な技能は,対称的な姿勢から成るものであり,物を検討し作製する際は,動作時の姿勢や使用による身体への影響を念頭に作製することが必要であると考える.また確実な演奏の習得に繋げるためには,長期的且つ自身の演奏技能の確認を行いながらの段階的な関わりが重要である.
小学校3年生になると,学校ではリコーダーを使った音楽の授業が始まる.誰もが上手く弾きたいと願い,身体機能に障害がある場合でもその思いは変わらず,友達と同じように演奏したいと思っている.上肢に麻痺がある場合は音孔を塞ぐことが難しく,限られた音での演奏に留まり一曲の演奏に至らないことも少なくない.今回他職種と協同し,通常のリコーダーの工夫を幾度も繰り返し,最終的には特殊リコーダーの導入により,一曲の演奏が可能になった片麻痺児への関わりについて報告する.なお発表に際し,文書と口頭にて説明を行い,本人と家族の承諾を得た.
【症例紹介】
10歳の胎生期発症の脳梗塞による左片麻痺児.アプローチ開始時は8歳で,上肢機能はBr’s-stage上肢Ⅴ,手指Ⅵで上肢の空間保持や操作は可能で,手指は母指と第5指までの対立は可能であった.認知機能面には問題はなかった.ADLは独歩可能で全ての動作が独力で可能であった.初回評価時のリコーダーの保持は,下唇と健側上肢と麻痺側上肢で不安定ながらも可能ではあったが,両上肢のバランスの取れた支えは困難であった.またリコーダーが右側に回転し,頭部管に対して中部管と足部管が左へ変位し,しっかりと音孔を塞ぐことができなかった.本人からもあきらめの声が聞かれ,演奏への集中も続かなかった.
【アプローチ経過と結果】
月1回の外来で計16回の介入を,本人の演奏に対する意欲が無くならないよう段階的に進めた.まずは両手での音孔の押さえと安定したリコーダーの支えを目指し,健側と麻痺側の手指を音孔に誘導するガイドと,安定した保持や演奏に適した構えが作れる胸受けの補助具を3Dプリンタで作製した.ガイドは実際に演奏をしながら,高さやガイド上部にストッパーを追加するなど構造の見直しを重ね,なんとか音孔の押さえが可能になった.胸受けは胸骨部に添わせてリコーダーの角度が変えられる構造とし,安定した音出し,構え,保持が可能となった.介入を重ね10回目には低音のミまでの音が弾けるようになり,継続して出せるようになった音での演奏など本人のできることをサポートすることで,演奏への興味関心が途切れずに演奏練習を続けた.しかし低いレとドを弾くことができず,一曲の演奏は難しかったため,外側の筒をスライドさせて内側の筒に空いた音孔を塞ぎ,音を出すことができるスライドリコーダーを提案した.導入にあたり,本人にリコーダーの操作方法や吹く力の調整による音出し方法などを説明し,演奏体験を行なった.そして本人の希望により導入を決定し,真鍮管で本体を,その他のパーツは3Dプリンタを用い作製した.口元の形状はリコーダーの息づかいで音が出せるように同等の形状とし,操作時左右の非対称の構えとならずに操作とリコーダーの保持ができるよう持ち手を作製した.その後,自宅での練習や授業での使用を重ねて一曲を演奏できるようになり,音楽のテストで課題曲を弾くことができ合格することができた.
【まとめ】
今回,付属部品の作製による通常のリコーダーでの演奏には至らなかったが,アプローチ過程において,まずは通常のものをできる限り使えることを目指すなかで,演奏に対する興味や関心を高め,演奏時の息づかいや構えなどの基本的な技能を習得することが必要であると感じた.安定した演奏時の基本的な技能は,対称的な姿勢から成るものであり,物を検討し作製する際は,動作時の姿勢や使用による身体への影響を念頭に作製することが必要であると考える.また確実な演奏の習得に繋げるためには,長期的且つ自身の演奏技能の確認を行いながらの段階的な関わりが重要である.