第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

MTDLP

[PM-1] ポスター:MTDLP 1

2023年11月10日(金) 11:00 〜 12:00 ポスター会場 (展示棟)

[PM-1-1] 周術期消化器がん患者に対するMTDLPによる介入効果の検証

山田 祐輝 (社会医療法人 財団 中村病院 /リハビリテーション部)

【序論】
がん医療では,がんサバイバーシップという概念から,がんとの共生のほか,家族や医療者による包括的支援が重要であるが,その概念に対して,がんの作業療法では,包括的視点を特性とするMTDLPが親和性のあるツールであると考えた.本報告では,周術期消化器がんに着目し,がんの作業療法の効果的な介入方法の構築の一助とすることを目的に,周術期消化器がん患者に対するMTDLPによる介入事例をもとに,がんサバイバーシップの視点から,その介入効果を検証する.
【対象】
80歳代女性のA氏.5人家族.日常生活自立度はⅠ.役割は調理(夕飯),洗濯(A氏の衣類等),掃除,診断名は胃がん(stageⅢ).X-19日に入院し,術前リハを開始した.X日に幽門側胃切除術を施し,X+1日に術後リハを開始した.
【方法】
術後リハの介入にMTDLPを使用した.HDS-R 22点.HADS 27点.CFS 32点.MMT上肢 3,下肢 3.BBS 3点.BI 0点.「家事をして家族を支えている」と語っていたA氏は家事再開を希望したが,自己効力感の低下がみられた.家族は家事再開に否定的であった.予後予測から役割分担による家事再開を提案すると,A氏は調理と洗濯を希望した.家族に家事はA氏の意味のある作業であることを説明すると,理解を示し,役割分担による家事再開に合意した(実行度1,満足度1).
【経過】
(1)急性期:X+1日に筋力訓練,X+2日に基本動作訓練を開始した.X+4日に動的立位訓練と屋内歩行訓練を開始した.その後,A氏に徐々に会話をする余裕がみられ,調理訓練の実施を取り決めた.(2)回復期①: X+7日に病棟での歩行よるトイレでの排泄と洗面所での整容をNSに依頼し,X+13日に各生活行為は自立した.A氏との調理計画のもと,X+14日に調理訓練を実施した.途中に椅子で休憩を取る場面がみられたが,調理後のA氏からは肯定的な感想が聞かれた.(3)回復期②:X+14日以降,栄養状態は安定し,日中の活動量は増加した.自宅の模擬環境でのADL訓練を実施した. 洗濯では,安全面を配慮した動作訓練を実施した.X+19日に家族に訓練を見てもらい「家事もできるかもしれない」と感想が聞かれた.(4)退院期:X+22日に試験外泊を実施した.家族の見守りの下,調理では,40分の時間内に2品を完成させることができた.洗濯では,洗濯物の運搬,洗濯物干しに動作の安全性が確認でき,A氏から「自信がついた」と感想が聞かれた.X+27日の退院前会議では,A氏,家族,多職種が参加し,生活指導と援助指導を実施した.
【結果】
HDS-R 23点.HADS 10点.CFS 10点.MMT上肢 4,下肢 3~4.BBS 47点.BI 100点.調理では,立位の耐久性と作業の効率性が向上した.洗濯では,洗濯物の運搬,洗濯物干しに動作の安全性が得られた. 退院前のA氏からは家事再開に対する意気込みが聞かれた(実行度5,満足度5).家族からは支援に対する肯定的発言が聞かれた.
【考察】
上出らは,がんサバイバーシップの作業療法の役割を「生活者としての視点から支援していくこと」と述べている.本事例では,周術期消化器がん患者に対して,MTDLPによる介入を行った結果,患者と家族の思いを合意目標に集約し,患者を中心に家族や多職種と包括的に協働することで,患者や家族の意識や行動の変容が生まれ,在宅生活の再建に寄与できたことから,周術期消化器がん患者に対するMTDLP による介入はがんサバイバーシップの生活者としての視点からの支援において有効であると考える.