第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

MTDLP

[PM-3] ポスター:MTDLP 3

2023年11月11日(土) 10:10 〜 11:10 ポスター会場 (展示棟)

[PM-3-1] 『独歩で自立した生活を送りたい』を目指して

伊佐 綾乃1, 座覇 政成1, 佐藤 圭祐1,2, 千知岩 伸匡1,2, 末永 正機2 (1.ちゅうざん病院リハビリテーション療法部, 2.ちゅうざん病院臨床教育研究センター)

【はじめに】
今回,交通外傷による多発骨折・末梢神経麻痺を呈した方を担当した.元の生活へ戻るため下肢の関節可動域制限を改善したいという想いを抱いている方に対し,生活行為向上マネジメント(以下MTDLP)を使用した結果,退院後の生活をイメージする事ができ,自身の課題に対する変化が見られた症例を経験したので報告する.
【事例紹介】
 30代,男性.X年9月交通事故により受傷,右下肢の関節可動域制限及び腓骨神経麻痺となる.急性期病院を経てX年11月に当院回復期病院へ転院しリハビリテーションを開始.受傷前の生活はアパート2階に独居,職業は建設関係の事務作業,自動車運転も行っていた.
【作業療法評価】
 MTDLP導入前(当院入院後2ヶ月目)右股関節屈曲80°,右膝関節屈曲85°,右足関節背屈0°,右下肢筋力はMMTにて大腿部2,下腿部2,足部0レベル.車椅子使用し終日セルフケア自立,杖歩行やフリーハンド歩行は監視レベルである事から,病棟生活には不便さを感じていなかった.IADL活動や社会復帰については練習の必要性を感じておらず,機能回復練習へ固執していた.また,「神経麻痺や関節可動域が改善されれば仕事や運転もできると思うので,今は機能回復訓練を集中的に取り入れて欲しい」と発言あり.受傷前の生活や社会復帰をする為には,機能面から生活行為へ視点を向ける必要があると考え,MTDLPを導入し「独歩で自立した生活を送りたい」を合意目標とした.初回の満足・実行度はともに2/10点であった.
【リハビリテーション介入】
 退院後の生活を見据えた支援や練習が導入できない要因として,病棟以外での生活行為が経験できない事によりIADL活動や社会復帰への具体的なイメージが持てず機能面へ固執していると考え,自宅訪問を実施し実践練習を行う事とした.基本的プログラムでは,関節可動域練習,筋力増強練習,自主練習指導,不安軽減へのアプローチを行った.応用的,社会的プログラムでは,自宅訪問で実践練習として家事動作や公共交通機関の利用練習,セルフケアの自立が可能か否かの確認や環境整備,今後の課題点や支援内容に関するフィードバックを症例及び他職種へ実施し,課題となった応用動作の練習を行った.
【介入経過と結果】
 自宅訪問の実施直後は自身の思い描いていた生活とは異なる事に気づきが得られた反面,①退院後の生活に対し漠然とした不安や焦りが生じた.②IADL活動を行うには動作負担が掛かる事や転倒リスクを伴う状況であった.また,運転再開や復職についても,③経済的な負担や他者の協力が必要な状態であった.①,②,③の課題に対し,一つ一つ確認しながら対処方法の説明を行った事で「退院後の生活をイメージできたので,少しは安心しました」や「残りの時間を大切にして,準備できる事をしっかりとやっていきます」など前向きな発言が聞かれた.また,ADL活動の実践及び代償方法の練習へ主体的に取り組まれ,退院後の生活に必要な情報収集や環境整備などに関する相談も行うようになった.
【考察】
 今回,機能回復へ固執し,生活行為の必要性を感じていなかった症例に対してMTDLPを行った事で,IADL活動や社会復帰への関心を高める事ができたと考えられた.また,プログラムを実施した事で今後の生活がより明確になり自身の課題に対する変化が得られた.課題解決へ向けた取り組みが入院期間内に行えた為,社会復帰への不安軽減にも繋がったと考えられた.