[PM-3-3] 生活行為向上マネジメントの活用により小学校の卒業式に参加が可能となった症例
【はじめに】
今回,三次救急病院において右拇指切断再接着後の小児症例に対し生活行為向上マネジメント(以下,MTDLP)を活用した.円滑な多職種連携が可能となり,入院中に外出し卒業式に参加できたため以下に報告する.本人及び保護者には発表に際して書面での同意を得ている.
【症例紹介】
10歳代の男児.自宅の庭でバスケットゴールの高さ調整を行っている時,金具に右拇指を挟み,ぶら下がる状態で右拇指中手指節関節での切断となり,当センター搬送後に右拇指再接着術の施行となった.
【作業療法経過】
10病日から作業療法開始となり,患部外の関節可動域訓練から開始となった.
11病日に医師のインフォームドコンセントに同席し,両親に対してMTDLP説明とシートでの聞き取りを実施した.両親からは「卒業式に出してあげたい」とのことであった.
12病日から15病日,本人へMTDLPの説明をした際,卒業式の参加について聞くと「本当は出たいけど,そう思ってて出れなかったら嫌だし,だったら初めから出なくていい」との消極的な発言が聞かれた.病棟カンファレンスにて本人の気持ちを伝え,医師や他職種と情報共有し,卒業式の参加が可能な状況になるのかを検討した.医師からは,「指の状態は安定するかぎりぎりの期間だが,準備はしておいたほうがよい」とのことであった.作業療法を実施しラポール形成していく中で「本当は卒業式に出たい」,「バスケットボールがしたい」との発言が聞かれ,合意目標として「卒業式に参加することができる」と設定した.生活行為アセスメントより①制服の着脱困難,②安全な移動方法の未確立,③患部の管理が不十分であることが合意目標達成の妨げになっていることがわかった.そこで,生活行為向上プランとして,①本人と保護者で安全に制服の着脱ができるように練習と指導,②指先の変化に応じた移動方法と操作方法の選定,③本人が指色の変化に気づけること,指の温度測定を行い低温になった際に保護者に伝えられることを計画した.
17病日から22病日,患部の管理として色と温度の確認が可能な保護目的の装具を作成した.装具作成に合わせ,動作前後に本人が指色の確認と温度測定を自主的に行う練習を開始した.また,医師,看護師,教頭,養護教諭,保護者で卒業式の参加についての詳細な打ち合わせを行った.作業療法士はCOVID-19の感染拡大による人数制限により参加ができなかったため,確認事項の抽出を行い看護師へ確認事項を申し送り,院内の車椅子にて卒業式に参加することとなった.さらに,保護者の介助により本人が制服とワイシャツ,装具の着脱ができるよう練習と指導を行った.
【結果】
合意目標の達成を妨げていた3つの項目ができるようになり,23病日に卒業式への参加が可能となった.5時間という短時間での外出であり,「卒業式に参加することができる」は実行度10,満足度8であった.満足度8は,歩行ではなく車椅子の参加となり恥ずかしかったからであった.
【考察】
急性期においては受傷からの期間が短く,障害への理解が得られにくいが,MTDLPの活用により,本人や保護者と医療者との間で具体的な方針,方向性を確認することができた.各職種や学校側との調整も専門職の強みを活かすことができ,結果として卒業式への参加が可能となった.患者が患者としての役割だけでなく,一個人としての小学生という役割を果たすことができ,急性期においては導入時期の難しさこそあるものの,個人の「大切な作業」を行うためにMTDLPの活用が有効な方法であったと考える.
今回,三次救急病院において右拇指切断再接着後の小児症例に対し生活行為向上マネジメント(以下,MTDLP)を活用した.円滑な多職種連携が可能となり,入院中に外出し卒業式に参加できたため以下に報告する.本人及び保護者には発表に際して書面での同意を得ている.
【症例紹介】
10歳代の男児.自宅の庭でバスケットゴールの高さ調整を行っている時,金具に右拇指を挟み,ぶら下がる状態で右拇指中手指節関節での切断となり,当センター搬送後に右拇指再接着術の施行となった.
【作業療法経過】
10病日から作業療法開始となり,患部外の関節可動域訓練から開始となった.
11病日に医師のインフォームドコンセントに同席し,両親に対してMTDLP説明とシートでの聞き取りを実施した.両親からは「卒業式に出してあげたい」とのことであった.
12病日から15病日,本人へMTDLPの説明をした際,卒業式の参加について聞くと「本当は出たいけど,そう思ってて出れなかったら嫌だし,だったら初めから出なくていい」との消極的な発言が聞かれた.病棟カンファレンスにて本人の気持ちを伝え,医師や他職種と情報共有し,卒業式の参加が可能な状況になるのかを検討した.医師からは,「指の状態は安定するかぎりぎりの期間だが,準備はしておいたほうがよい」とのことであった.作業療法を実施しラポール形成していく中で「本当は卒業式に出たい」,「バスケットボールがしたい」との発言が聞かれ,合意目標として「卒業式に参加することができる」と設定した.生活行為アセスメントより①制服の着脱困難,②安全な移動方法の未確立,③患部の管理が不十分であることが合意目標達成の妨げになっていることがわかった.そこで,生活行為向上プランとして,①本人と保護者で安全に制服の着脱ができるように練習と指導,②指先の変化に応じた移動方法と操作方法の選定,③本人が指色の変化に気づけること,指の温度測定を行い低温になった際に保護者に伝えられることを計画した.
17病日から22病日,患部の管理として色と温度の確認が可能な保護目的の装具を作成した.装具作成に合わせ,動作前後に本人が指色の確認と温度測定を自主的に行う練習を開始した.また,医師,看護師,教頭,養護教諭,保護者で卒業式の参加についての詳細な打ち合わせを行った.作業療法士はCOVID-19の感染拡大による人数制限により参加ができなかったため,確認事項の抽出を行い看護師へ確認事項を申し送り,院内の車椅子にて卒業式に参加することとなった.さらに,保護者の介助により本人が制服とワイシャツ,装具の着脱ができるよう練習と指導を行った.
【結果】
合意目標の達成を妨げていた3つの項目ができるようになり,23病日に卒業式への参加が可能となった.5時間という短時間での外出であり,「卒業式に参加することができる」は実行度10,満足度8であった.満足度8は,歩行ではなく車椅子の参加となり恥ずかしかったからであった.
【考察】
急性期においては受傷からの期間が短く,障害への理解が得られにくいが,MTDLPの活用により,本人や保護者と医療者との間で具体的な方針,方向性を確認することができた.各職種や学校側との調整も専門職の強みを活かすことができ,結果として卒業式への参加が可能となった.患者が患者としての役割だけでなく,一個人としての小学生という役割を果たすことができ,急性期においては導入時期の難しさこそあるものの,個人の「大切な作業」を行うためにMTDLPの活用が有効な方法であったと考える.