第57回日本作業療法学会

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ポスター

MTDLP

[PM-4] ポスター:MTDLP 4

Sat. Nov 11, 2023 11:10 AM - 12:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PM-4-3] 地域包括ケア病棟に入院中の認知症高齢者に対するMTDLPの実践

丸橋 篤人 (本庄総合病院リハビリテーション科)

【はじめに】
現代において認知症高齢者の増加が話題となっており,地域包括ケア病棟がある多くの病院が認知症ケアを実践している.地域包括ケア病棟の運営課題としては退院支援力の向上と多職種連携があるため,認知症高齢者のニーズに焦点を当て,その実現に向けた多職種協働での支援を行うことが重要である.今回,地域包括ケア病棟に入院中の認知症高齢者に対してMTDLPを実践したことで,本人が持つ能力が引き出され,自宅退院が叶った一例を報告する.
【事例紹介】
80代女性のA氏は誤嚥性肺炎で入院となり,ADL低下を認めていた.既往歴は認知症とうつ病があった.入院前は自宅で過ごし,階段昇降以外のADLは自立していた.主介護者は息子であった.
【倫理的配慮】
本報告にあたり,A氏とその家族に対して文書と口頭で説明し,書面にて同意を得た.また,当院の倫理委員会にて承認を得た(承認番号:2023.0114).
【作業療法評価】
改訂長谷川式簡易知能評価スケール(以下,HDS-R)は15点で,認知症の行動・心理症状質問票(以下,BPSD25Q)は低活動スコアにて重症度は15点,負担度は8点であった.Barthel Index (以下,BI)は75点で,機能的自立度評価法(以下,FIM)は61点(運動44点,認知17点)であった.病棟ADLは,スタッフがA氏のできることも必要以上に介助していた.インテークでは,A氏から「家に帰りたい」と聞かれ,息子からは「自宅での生活が自立できるように」と聞かれた.以上より,合意目標は「1ヶ月で病棟ADLが自立し,2ヶ月で息子の介助なく自宅で生活できる」とした.実行度と満足度はともに1点で,主な生活行為を妨げている要因はスタッフによる過剰介護,主な強みはできるADLが多いことを挙げた.
【介入方針】
作業療法介入は病棟スタッフと一緒にADL練習を実施することとした.ADLを情報共有することで,過剰介護の背景や生活目標に対する問題点と利点を明確にすることとした.
【介入経過】
情報共有はマネジメントシートを活用したことで,生活目標に対する問題点と利点が可視化され,自宅退院に向けた建設的な話し合いが可能となった.過剰介護の背景として,看護師と介護福祉士との間で情報共有が不十分で,一人ひとりができるADLを適切に評価できていなかった.そこで,特定のスタッフとケアチームを結成し,最初はチームでADL練習を実施すると,2週間後には病棟全体でA氏の能力に合わせたケアに統一することができた.3週間後には階段昇降以外の病棟ADLは自立となった.
【結果】
HDS-Rは23点で,BPSD25Qは低活動スコアにて重症度と負担度はともに0点であった.BIは90点で,FIMは121点(運動87点,認知35点)であった.1ヶ月半後には自宅退院となり,息子の介助なく生活できるようになった.実行度と満足度はともに5点で,A氏からは「これからも自分で生活できるように頑張らないと」と笑顔で話し,現状に甘んじない肯定的な発言があった.
【考察】
情報共有では,マネジメントシートを活用したことで,生活目標に対する問題点と利点が明確となり,作業療法士と病棟スタッフとの間で思考のギャップを埋めることができた.A氏のニーズに焦点を合わせた多職種協働での支援により,本人が持つ能力を引き出せたことで再び自宅で生活することが叶った.認知症高齢者に対するMTDLPの実践は,ニーズに焦点を当てた多職種協働での支援を可能とし,退院支援力の向上につながることが示唆された.