[PN-1-12] トイレ動作の安定を機に自宅での役割と自尊心の維持が図れた事例
【はじめに】健康状態が悪化する要因の一つに仕事や家事など役割の喪失が挙げられる.トイレ動作時に転倒の多い高齢者に対し,動作安定を図った結果,役割の再獲得と自尊心の維持に繋がった事例を担当した.ここに考察を交えて報告する.今回の発表に際し,事例とその家族へ同意を得ている.
【事例紹介】80代,男性.妻・長男と3人暮らし.診断名:陳旧性ラクナ梗塞(左小脳半球,両側基底核).X-2年9月より,歩容悪化を認め転倒が増加.訪問リハビリテーション(以下,訪問リハ),を週1回利用し,その他のサービスの利用はない.会社経営者であるが,主業務は長男に引き継ぎ,事例は電話対応や書類業務を行っている.事例は,数回起業した経験を長男に伝えることを役割と捉えているが,転倒が続くため,家族に迷惑をかけていると感じ,役割を遂行出来ていない.
【作業療法評価】MMSE:29/30,指示理解良好.老年期うつ病評価尺度(以下GDS):7/15点.やる気スコア:17/42点.FBS:28/56点.Time up and go Test(歩行車使用):通常28秒,最大26秒.FIM:101/126点,屋内移動は歩行車を使用.トイレ動作は物的支持にて自立しているが,訪問リハ開始前には,1ヶ月で4回認めた.転倒後は自力で起き上がれず,長男の介助を必要とする.トイレ動作の遂行度は4/10,満足度は4/10である.
【作業療法経過】
訪問開始時:事例との合意の下,長期目標(在宅生活を継続すること)と短期目標(転倒なく,トイレ動作を行うこと)を設定した. 介入当初は,在宅生活を継続することで家族に迷惑をかけているという自責感があった.これはトイレ場面での転倒頻度が課題であったため,課題解決として,環境調整と実動作訓練を実施した.
訪問開始2ヶ月:訓練後,転倒が減少したことで,事例から「このままなら家に居られそう」という言葉が聞かれた.
訪問開始4ヶ月:その後も,転倒無く,在宅生活が継続出来ている事で,事例から「まだ家に居て良いと思える」と前向きなものになり,「家に居ても息子の力になれる.今のうちに自分の経験を多く伝えたい」と役割継続に対する意欲や自尊心の向上が見られた.
【結果】FBSは31/56点と著明な変化は認めなかった.しかし,環境調整と実動作訓練により,転倒が大幅に減少した事で,トイレ動作の遂行度は8/10点,満足度は9/10点に上昇した.GDSも5/15点,やる気スコアは12/42点と精神状態の改善も認めた.介入当初にあったネガティブな発言は認めなくなり,在宅生活や役割の継続に対し,前向きな発言が多く聞かれるようになった.
【考察】今回,事例にとって電話対応や書類業務を遂行し,経験を伝えることが,社長として,父親としての存在価値を強く持たせ,事例にとって重要な役割となっていた.しかし,転倒頻度が増加したことで,在宅時間を少なくすることが家族のためになると感じ始め,仕事面でも長男の力になれないという葛藤も感じていた.しかし,転倒の減少によって,長男への介助負担の軽減が図れたことで,在宅生活の継続に自信が持てるようになり,事例の考える役割の遂行への意欲にも繋がったと考える.その後も,在宅生活が継続出来ており,妻や長男とのコミュニケーション機会が保たれ,良好な家族関係を維持することにも繋がったと考える.
【参考文献】
1)生川理恵,鈴村彰太,伊藤圭,他:訪問リハビリテーションでの住環境整備によりADLの向上と主体的な目標達成が可能となった超高齢の一症例.日本在宅医療連合学会誌 第2巻 第2号 2021.9.
【事例紹介】80代,男性.妻・長男と3人暮らし.診断名:陳旧性ラクナ梗塞(左小脳半球,両側基底核).X-2年9月より,歩容悪化を認め転倒が増加.訪問リハビリテーション(以下,訪問リハ),を週1回利用し,その他のサービスの利用はない.会社経営者であるが,主業務は長男に引き継ぎ,事例は電話対応や書類業務を行っている.事例は,数回起業した経験を長男に伝えることを役割と捉えているが,転倒が続くため,家族に迷惑をかけていると感じ,役割を遂行出来ていない.
【作業療法評価】MMSE:29/30,指示理解良好.老年期うつ病評価尺度(以下GDS):7/15点.やる気スコア:17/42点.FBS:28/56点.Time up and go Test(歩行車使用):通常28秒,最大26秒.FIM:101/126点,屋内移動は歩行車を使用.トイレ動作は物的支持にて自立しているが,訪問リハ開始前には,1ヶ月で4回認めた.転倒後は自力で起き上がれず,長男の介助を必要とする.トイレ動作の遂行度は4/10,満足度は4/10である.
【作業療法経過】
訪問開始時:事例との合意の下,長期目標(在宅生活を継続すること)と短期目標(転倒なく,トイレ動作を行うこと)を設定した. 介入当初は,在宅生活を継続することで家族に迷惑をかけているという自責感があった.これはトイレ場面での転倒頻度が課題であったため,課題解決として,環境調整と実動作訓練を実施した.
訪問開始2ヶ月:訓練後,転倒が減少したことで,事例から「このままなら家に居られそう」という言葉が聞かれた.
訪問開始4ヶ月:その後も,転倒無く,在宅生活が継続出来ている事で,事例から「まだ家に居て良いと思える」と前向きなものになり,「家に居ても息子の力になれる.今のうちに自分の経験を多く伝えたい」と役割継続に対する意欲や自尊心の向上が見られた.
【結果】FBSは31/56点と著明な変化は認めなかった.しかし,環境調整と実動作訓練により,転倒が大幅に減少した事で,トイレ動作の遂行度は8/10点,満足度は9/10点に上昇した.GDSも5/15点,やる気スコアは12/42点と精神状態の改善も認めた.介入当初にあったネガティブな発言は認めなくなり,在宅生活や役割の継続に対し,前向きな発言が多く聞かれるようになった.
【考察】今回,事例にとって電話対応や書類業務を遂行し,経験を伝えることが,社長として,父親としての存在価値を強く持たせ,事例にとって重要な役割となっていた.しかし,転倒頻度が増加したことで,在宅時間を少なくすることが家族のためになると感じ始め,仕事面でも長男の力になれないという葛藤も感じていた.しかし,転倒の減少によって,長男への介助負担の軽減が図れたことで,在宅生活の継続に自信が持てるようになり,事例の考える役割の遂行への意欲にも繋がったと考える.その後も,在宅生活が継続出来ており,妻や長男とのコミュニケーション機会が保たれ,良好な家族関係を維持することにも繋がったと考える.
【参考文献】
1)生川理恵,鈴村彰太,伊藤圭,他:訪問リハビリテーションでの住環境整備によりADLの向上と主体的な目標達成が可能となった超高齢の一症例.日本在宅医療連合学会誌 第2巻 第2号 2021.9.