[PN-1-6] 地域在住の高次脳機能障害者の健康関連QOL評価：脳血管障害者と頭部外傷者の比較
【はじめに】健康関連QOL (Health-related Quality of Life ; HRQOL) は，心理的，身体的，社会的，日常生活的な領域で構成されるQOLに対する健康状態の影響を評価するものである. 脳血管障害や頭部外傷 (Traumatic Brain Injury; TBI) 罹患後は機能的・心理的・社会的な制約が組み合わさっているため，罹患した当事者の主観に基づく患者立脚型アウトカム評価が長期的に望ましいとされる．QOLIBRI-OS(Quality of Life after Brain Injury Overall Scale; 脳外傷後の生活の質 短縮版; 以下OS)は，TBI疾患特異的尺度として開発された (von Steinbuechel et al, 2013)主観に基づく自己記入式の質問紙である．6項目の全般的尺度（身体・認知・感情・日常・人間関係・現状および将来の見通し）で構成され，短時間かつ簡便に使用することを目的とする．結果を100%で表現し，高値であるほど高いQOLを示す．CVA患者で信頼性と妥当性が検証されており(Heiberg et al, 2018)，高次脳機能障害をもつ脳損傷者のHRQOL評価として使用することが可能である．これまでにOSを用いてTBIとCVAのQOLを比較した結果の報告は見られないことから，今回検討し報告する．
本研究は，本学倫理審査委員会で承認後，対象者に研究参加の同意を書面で得て実施した．
【方法】地域在住のCVA者68名（男性51名・女性17名，平均年齢54.9歳）およびTBI者131名（男性106名・女性25名，平均年齢43.9歳）とその家族介護者に面接法もしくは郵送法で質問紙を実施した．OSと同時に，やる気スコア，SDS (Self-rating Depression Scale)を当事者が自己記入し，社会的背景や日常生活の自立度と社会適応障害調査票，本人の持つ問題点を家族介護者が記入した．
【結果】CVA 者とTBI者のOSでは総スコアに差はなかった (CVA; 中央値33.3, TBI; 中央値29.2)が，下位尺度の人間関係への満足度がTBIで有意に低かった．認知機能や将来への見通しへの満足度は両者共に低かった(P=0.000, Friedman検定)．基本情報では，CVAがより高齢で (P=0.000)，介護者と同居 (P=0.045) およびパートナーのいる割合 (P=0.000)が高かった．TBI者では発症後年数(P=0.000)が長く，就労あり(P=0.036)の割合が大きかった．失語はCVA者で多く(P=0.024)，TBI者で遂行機能障害(P=0.008)，感情コントロール困難(P=0.038)，固執性(P=0.001)，依存性(P=0.004)が多い結果であった (いずれもFriedman検定)．意欲低下と抑うつの程度には差は認めなかった．社会適応障害調査表においても差はなかった． (P>0.05, いずれもMann-Whitney U検定)．日常生活の自立度にも差は認めないものの，両者とも公共交通機関の利用や役所の書類の管理などの高度な認知機能を要する活動の自立度は有意に低かった (P=0.000, Friedman検定)．
【考察】私生活での人間関係に対する満足度がTBIで低いのは，感情コントロールや固執性や依存性といった社会的行動障害をもつことが人間関係の悪化に影響を及ぼしている可能性が示唆された．CVA者とTBI者ではQOL全体を眺めると差は認めなかった．身体機能や認知機能，感情コントロールやADLおよび将来への見通しへの満足度にも差はなく，両者共に同様の悩みをもつと考えられた．
今回の結果では異なる機序の脳損傷に起因する問題や悩みがQOL全体や社会適応度に特徴的な影響を及ぼすとはいえなかった．年齢や就労の有無，パートナーの有無といった社会的背景の違いがCVAとTBI者で存在したにもかかわらず，認知機能や将来への見通しに対する両者の共通した不安がQOLにも影響を及ぼすと推察された．CVAとTBI者では，日常生活やQOLの多面的側面において類似した低下傾向を示すことが明らかになった．
本研究は，本学倫理審査委員会で承認後，対象者に研究参加の同意を書面で得て実施した．
【方法】地域在住のCVA者68名（男性51名・女性17名，平均年齢54.9歳）およびTBI者131名（男性106名・女性25名，平均年齢43.9歳）とその家族介護者に面接法もしくは郵送法で質問紙を実施した．OSと同時に，やる気スコア，SDS (Self-rating Depression Scale)を当事者が自己記入し，社会的背景や日常生活の自立度と社会適応障害調査票，本人の持つ問題点を家族介護者が記入した．
【結果】CVA 者とTBI者のOSでは総スコアに差はなかった (CVA; 中央値33.3, TBI; 中央値29.2)が，下位尺度の人間関係への満足度がTBIで有意に低かった．認知機能や将来への見通しへの満足度は両者共に低かった(P=0.000, Friedman検定)．基本情報では，CVAがより高齢で (P=0.000)，介護者と同居 (P=0.045) およびパートナーのいる割合 (P=0.000)が高かった．TBI者では発症後年数(P=0.000)が長く，就労あり(P=0.036)の割合が大きかった．失語はCVA者で多く(P=0.024)，TBI者で遂行機能障害(P=0.008)，感情コントロール困難(P=0.038)，固執性(P=0.001)，依存性(P=0.004)が多い結果であった (いずれもFriedman検定)．意欲低下と抑うつの程度には差は認めなかった．社会適応障害調査表においても差はなかった． (P>0.05, いずれもMann-Whitney U検定)．日常生活の自立度にも差は認めないものの，両者とも公共交通機関の利用や役所の書類の管理などの高度な認知機能を要する活動の自立度は有意に低かった (P=0.000, Friedman検定)．
【考察】私生活での人間関係に対する満足度がTBIで低いのは，感情コントロールや固執性や依存性といった社会的行動障害をもつことが人間関係の悪化に影響を及ぼしている可能性が示唆された．CVA者とTBI者ではQOL全体を眺めると差は認めなかった．身体機能や認知機能，感情コントロールやADLおよび将来への見通しへの満足度にも差はなく，両者共に同様の悩みをもつと考えられた．
今回の結果では異なる機序の脳損傷に起因する問題や悩みがQOL全体や社会適応度に特徴的な影響を及ぼすとはいえなかった．年齢や就労の有無，パートナーの有無といった社会的背景の違いがCVAとTBI者で存在したにもかかわらず，認知機能や将来への見通しに対する両者の共通した不安がQOLにも影響を及ぼすと推察された．CVAとTBI者では，日常生活やQOLの多面的側面において類似した低下傾向を示すことが明らかになった．