[PN-10-11] 他利用者との主体的な共有体験が自発性の向上に繋がっている一事例
【序論】通所介護は,利用者同士での交流や集団活動が行える場であり,集団療法においては性別,年齢,障害などメンバーの差が少ない同質集団の方が,相互の共感が得られやすいとされている(山根,2011).今回,脳卒中後にうつ傾向とアパシーを併発した事例に対し,比較的差の少ない利用者と交流の機会を設けたところ,自発性は向上したが,主観的なアパシーの改善には至らず継続してネガティブな発言が聞かれた.その経過と考察を報告する.尚,本報告に関しては当法人の倫理委員会の承認を得た(倫-リ-124).
【事例紹介①】50代女性A氏.右被殻出血を発症後6カ月,左片麻痺と高次脳機能障害(全般性注意機能障害,左半側空間無視,脱抑制)を有する.やる気スコアは24/42点,Apathy Evaluation Scale(AES)介護者評価 日本語版(AES-I-J)は66/72点, Barthel Index(BI)は45/100点であった.施設内では車椅子自操もしくは他操で移動し,自ら他者と交流することはないが,他利用者から話しかけられた際は熱心に話しこむ様子がみられていた.主訴は「歩きたいし手も動かしたい」であった.
【事例紹介②】60代女性B氏.くも膜下出血を発症後11カ月,左片麻痺と高次脳機能障害(注意障害,左半側空間無視,脱抑制)を有する.やる気スコアは9/42点,AES-I-Jは37/72点,BIは40/100点であった.
【経過】<第1期>集団規範による同調行動の時期(利用開始1週~6週)
A氏は杖歩行で移動する利用者を見ては,「私は障害が重いみたいなの」「こんな体になって嫌,もう死にたい」などの悲観的な発言を繰り返していた.また個別訓練でも易疲労性が強く開始5分ほどで「もうしんどい」と訴えていた.しかし,次第に他利用者がマシン運動や自主練習に取り組む姿を眺めるようになり,「私も練習したい」と意欲的な発言が聞かれるようになった.
<第2期>インフォーマルなピアサポートと小集団活動の時期(7週~11週)
B氏はA氏に積極的に話しかけるようになり,「車椅子を卒業したいと思っているの」など,自らの目標の共有もしていた.その後A氏も話しかけにいくなど,徐々に関係性は築かれていた.そこで,「他の利用者さんと練習してみませんか」と提案すると「Bさんと一緒にやりたい」と希望が聞かれ,2名の利用日が重なる週2日,一緒に起立練習を行うことになった. B氏は「負けたくないと思ってやる気が出る」と練習を前向きに捉えていた.一方, A氏も「これからBさんと一緒に頑張る」と主体的な発言が聞かれるようになった.また練習の回数に関しても,始めは「3回だけにします」と話していたが,徐々に増え自発的に20回行うこともあった.
【結果】A氏は継続してB氏との訓練を行うことが可能であった.個別訓練にも拒否なく取り組まれる頻度が多くなり,AES-I-Jは51/72点と改善した.しかしやる気スコアは27/42点と改善を認めなかった.またB氏について「私はこんなに自分の体が嫌なのに,あんなに明るいのが不思議でしょうがない」と話すなど,自己との違いを話し落ち込む様子がみられた.
【考察】ADLや移動能力の近しいB氏との共有体験は, "自分だけではない"という安心感から共感は少なからず得られ自発性の向上に繋がったが,精神状態の差により本質的な共感を得られなかったことが考えられる.またA氏の発言からは,B氏と行う起立という活動は,上手くやれるという効力期待,即ち自己効力感と,良い結果に繋がるという結果期待を得るのに不十分であったことが推察される. Bandura(1997)は,それらを得ることで行動への動機づけが高まるとしている.更に行動が持続されることで行動変容に繋がり,その過程を経て主観的評価が改善していく可能性があると考えて,今後の介入を検討していきたい.
【事例紹介①】50代女性A氏.右被殻出血を発症後6カ月,左片麻痺と高次脳機能障害(全般性注意機能障害,左半側空間無視,脱抑制)を有する.やる気スコアは24/42点,Apathy Evaluation Scale(AES)介護者評価 日本語版(AES-I-J)は66/72点, Barthel Index(BI)は45/100点であった.施設内では車椅子自操もしくは他操で移動し,自ら他者と交流することはないが,他利用者から話しかけられた際は熱心に話しこむ様子がみられていた.主訴は「歩きたいし手も動かしたい」であった.
【事例紹介②】60代女性B氏.くも膜下出血を発症後11カ月,左片麻痺と高次脳機能障害(注意障害,左半側空間無視,脱抑制)を有する.やる気スコアは9/42点,AES-I-Jは37/72点,BIは40/100点であった.
【経過】<第1期>集団規範による同調行動の時期(利用開始1週~6週)
A氏は杖歩行で移動する利用者を見ては,「私は障害が重いみたいなの」「こんな体になって嫌,もう死にたい」などの悲観的な発言を繰り返していた.また個別訓練でも易疲労性が強く開始5分ほどで「もうしんどい」と訴えていた.しかし,次第に他利用者がマシン運動や自主練習に取り組む姿を眺めるようになり,「私も練習したい」と意欲的な発言が聞かれるようになった.
<第2期>インフォーマルなピアサポートと小集団活動の時期(7週~11週)
B氏はA氏に積極的に話しかけるようになり,「車椅子を卒業したいと思っているの」など,自らの目標の共有もしていた.その後A氏も話しかけにいくなど,徐々に関係性は築かれていた.そこで,「他の利用者さんと練習してみませんか」と提案すると「Bさんと一緒にやりたい」と希望が聞かれ,2名の利用日が重なる週2日,一緒に起立練習を行うことになった. B氏は「負けたくないと思ってやる気が出る」と練習を前向きに捉えていた.一方, A氏も「これからBさんと一緒に頑張る」と主体的な発言が聞かれるようになった.また練習の回数に関しても,始めは「3回だけにします」と話していたが,徐々に増え自発的に20回行うこともあった.
【結果】A氏は継続してB氏との訓練を行うことが可能であった.個別訓練にも拒否なく取り組まれる頻度が多くなり,AES-I-Jは51/72点と改善した.しかしやる気スコアは27/42点と改善を認めなかった.またB氏について「私はこんなに自分の体が嫌なのに,あんなに明るいのが不思議でしょうがない」と話すなど,自己との違いを話し落ち込む様子がみられた.
【考察】ADLや移動能力の近しいB氏との共有体験は, "自分だけではない"という安心感から共感は少なからず得られ自発性の向上に繋がったが,精神状態の差により本質的な共感を得られなかったことが考えられる.またA氏の発言からは,B氏と行う起立という活動は,上手くやれるという効力期待,即ち自己効力感と,良い結果に繋がるという結果期待を得るのに不十分であったことが推察される. Bandura(1997)は,それらを得ることで行動への動機づけが高まるとしている.更に行動が持続されることで行動変容に繋がり,その過程を経て主観的評価が改善していく可能性があると考えて,今後の介入を検討していきたい.