第57回日本作業療法学会

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[PN-10] ポスター:地域 10

2023年11月11日(土) 14:10 〜 15:10 ポスター会場 (展示棟)

[PN-10-2] 作業療法の視点を用いた地域における支援の構築に向けた考察

藤崎 咲子1,2, 壁田 英一2, 鹿野 健治2 (1.社会福祉法人翔の会 児童発達支援センターうーたん, 2.特定非営利活動法人ステラポラリス)

【はじめに】日本作業療法士協会5カ年戦略(2018-2022)にて「共生社会の実現に向けた,地域を基盤とする包括的ケアにおける作業療法の活用推進」が重点事項とされている通り,地域福祉領域での作業療法の展開が期待されている.今回,障害福祉サービスの自立訓練(生活訓練)を行うA事業所にて作業療法の視点を用いたプログラム企画の機会を得た.本事業は作業療法士の配置が必須ではないが,谷村ら(2007)は精神障害のある当事者の精神保健福祉および生活上のニーズは,作業療法の実践モデルによる支援が可能であると述べている.そこで当事者スタッフによるピアサポートを実施しているA事業所における実践の検討に向け,利用者(以下,メンバー)に対しニーズ調査を実施したのでその結果を報告する.発表にあたりメンバー,スタッフより口頭にて同意を得ている.本発表に関連するCOIはない.
【方法】谷村ら(2007)の分析によるニーズの分類を参考にアンケート用紙を作成しメンバーに配布した.回答は『A事業所で取り組みたい』『自分の力などで取り組みたい』『当てはまらない・答えたくない』のいずれかを選択するよう求めた.集計結果をメンバー,スタッフと共有した上でスタッフがファシリテーターとなりフリーディスカッションを実施し,筆者は発言について記録した.
【結果】『A事業所で取り組みたい』の回答が過半数の設問は"サービス利用後に顕在化するニーズがある,就労支援をしてほしい,精神医療保健福祉の情報がほしい,前向きに生活できる,障害を理解してくれる社会に受け入れてほしい,仲間と良い関係が持てる,専門家が関わってくれる,生活するためにサービスを利用したい,制度・サービス利用に潜在的なニーズがある,居場所がほしい,良い対人関係が持てる,IADLを援助してほしい"というものであった.『自分の力などで取り組みたい』の回答が多かった設問は"友人と良い関係が持てる,心身の変化に対応できる,望む住まいで暮らしたい,心身の好調・不調に気付いている,家族と良い関係を保ちたい,経済的に安定したい"であった.回答割合が拮抗していた設問や『当てはまらない』が半数以上の設問もあった.フリーディスカッションでは<仲間との関係は事業所で取り組むが友人家族とのことは自分でやる,という所が面白かった,自分たちが使える制度のことは知らないのでそれは教えてほしい,ということ>などの感想があった.またプログラムを振り返り,スタッフの旅行記に触れる回や運動を通じ"前向きに生活できる,良い対人関係が持てた"との声があった.地域開放型のイベントでは<舞台に上がり解放感を味わえた,準備は大変だったが当日の観客の反応に満足した>という感想や,外出や旅行プログラムを通じ<初めての体験もあり心が豊かになった,気の進まない活動でも楽しさを感じプラス思考になれた>などの感想があった.
【考察】精神保健福祉施策は入院医療主体から地域社会生活の促進へと変化してきており,谷村ら(2007)は「客観的な指標だけではなく,社会生活をする当事者の主観的なニーズをいかに把握するかが重要である」と述べている.本調査では制度・サービスの利用によって自覚に至ったニーズの存在が示唆された.またA事業所の支援はピアサポートが中心であり,メンバーが実感し表出しやすい主観的ニーズの充足が優先的に行われていると考えられる.本調査で明らかになった既存のプログラムの効果をさらに分析し,今後は作業療法の視点を用いた支援について検討していきたい.