第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

地域

[PN-10] ポスター:地域 10

2023年11月11日(土) 14:10 〜 15:10 ポスター会場 (展示棟)

[PN-10-5] 窃盗を繰り返す統合失調症入居者に対するチームアプローチの実践報告

日高 愛1, 足立 一2, 上原 央3, 林部 美紀4 (1.アイリブとちぎ, 2.高知リハビリテーション専門職大学, 3.姫路医療専門学校, 4.大阪保健医療大学)

1.はじめに
アイリブとちぎは,栃木県塩谷郡高根沢町で共同生活援助事業(以下GH=グループホーム)を運営し,精神障害者の地域移行をすすめている.2018年の開業以来8名の精神障害者の地域移行を行っている.その中で退院後に幻聴・誇大妄想・脱抑制状態が悪化し,GHや地域で窃盗を繰り返し再入院となった統合失調症入居者に対して,窃盗防止のためのチームアプローチを実践したので以下に報告する.なお,発表は症例に紙面で同意を得ている.
2.症例紹介
50代女性Aさん,統合失調症,精神障害者手帳1級,高校卒業後,就職先での人間関係に悩み被害妄想や幻聴が出現し発症,精神科初診となる.精神病院の入退院を繰り返し,X年アイリブとちぎ入居が決まり退院となる.ADL自立,IADLの金銭管理に支援必要,買い物は近隣でお小遣いの範囲のみ自立.就労継続支援B型事業所とする.
3.経過
X+1年後より就労先の仕事や工賃のストレス・不満が増え,早退やGH内で食材や砂糖を食べること,同居人のおやつを盗むことが増える.理由は「食べていいと聴こえる」と幻聴の発言あり,食材を置かないよう対応する.徐々にエスカレートし,ゴミ箱に大量のお菓子やパン・アイスのゴミを世話人が確認,窃盗の疑いにて要観察,帰宅時エコバックに入った窃盗商品を確認する.お店に謝罪に行き,支払いを行うも翌日には窃盗を繰り返し,世話人や生活支援員の目を盗んでは走って窃盗にいくこともあった.「毎日休まず働いた分のお給料です.お店への支払いは就労先から済んでいます」と幻聴・妄想状態,脱抑制のため会話にならず,主治医・家族に相談し医療保護入院となる.
 入院後,窃盗防止のために関係者で話し合い,GH受け入れ条件①給料・年金額の理解②お小遣いの理解③買い物同行④窃盗(GH内外)しないことを共有し,医療は服薬調整と条件①-④をカウンセリング,相談支援専門員は本人に合う就労先への変更を行った.3か月後,落ち着き退院となるも,同様に隠れてお店に行き窃盗を行い1ヵ月で再入院となる.再度,服薬調整と①-④の説明を主治医に依頼,司法専門の作業療法士(以下OT)Go-Go-OT-Net(以下Go-Go)のアドバイスを受け,短期的な外泊+就労体験を繰り返しながら,本人・医療・相談支援専門員・就労・GHと共に本人への条件①-④と外泊時のフィードバックを半年間繰り返し,①-④の本人の理解が出来たところで退院となる.退院後,月1回の受診での医療の関りを継続,Go-Goのオンラインの関わりを加え,支援者に話しにくい希望や困り事,不安を聞き出しサポートしていただいた.
5.結果
 退院後1年が経過,Aさんは窃盗することなくGHで暮らしている.幻聴・妄想はあるが,世話人のお手伝いをしたり,笑顔で就労に行き,お弁当作りやレストランでの洗い物の仕事にやりがいを持って働いている.サービス管理責任者とお給料をやりくりし,お小遣いで買いたいものを計画,買い物は週に1回生活支援員同行で行っている.窃盗については,「自分が損するからしません」と話している.
6.考察
 GHだけではAさんの窃盗を防止することは困難であり,今回犯罪を防止することができた要因は,窃盗を繰り返し入院してもGHが退院先として受け入れ続けたこと,入院・外泊・退院後と医療機関と連携し続けてきたこと,司法OTの専門家と繋がりアドバイスを受けたことだと考える.そして,障害福祉・医療・司法の連携マネジメントを行いチームアプローチを行ったことでAさん自身の窃盗への認識の変化が見られたことが一番の要因と考える.