第57回日本作業療法学会

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[PN-11] ポスター:地域 11

2023年11月11日(土) 15:10 〜 16:10 ポスター会場 (展示棟)

[PN-11-10] 産前産後ケアにおけるリハビリテーション専門職の必要性について

村上 英里1, 小野 妙子2 (1.なんぶ幸朋苑リハビリテーション科, 2.女性専用生体 WACARO)

【はじめに】
妊婦の約5割が腰痛を抱えており,産後は骨盤の開きの影響などで歩行が不安定となる.また,産後にはホルモンバランスの影響から精神的な不安定さを訴えるものも少なくないと言われている.これら心身機能に関する対策として,妊婦検診など2週間に1度程度のフォローアップは十分であろうか.今回,妊娠後期~産後4か月,理学療法士(以下,PT)による産前産後の運動指導・ダイレクトストレッチ・セルフケアなどの指導を受け,効果判定を行った.結果を踏まえ,報告及び考察する.また,今回の発表において,施術者の同意を得た.
【目的】
 リハビリテーション(以下,リハ)専門職の産前産後ケアの参入による産後の心身機能の回復及び育児への影響について,その必要性を実体験をもとに検討する.
【経過と結果】
20代女性.既往歴:気管支喘息.妊娠10週で悪阻がひどく1週間休職した.その後は業務内容を調整してもらい,妊娠29週まで勤務できた.妊娠25週から右10-12肋骨周囲に軽度な痛みあり.加えて右下肢の立脚終期の蹴り出しの不十分さや就寝時の腓腹筋痙攣が出現し,歩容の乱れを実感していた.妊娠30週よりウィメンズヘルスを専門とする開業PTによる運動指導を受けた.姿勢・歩行状態を評価後,肋間筋の筋緊張の調整や大胸筋・脛骨筋のダイレクトストレッチなどの施術 を受け,疼痛や呼吸数,歩容に改善がみられた.さらに産前に出産時及び産後の呼吸法 についての指導を受け,自主訓練を実施した.妊娠37週に無痛経腟分娩で出産.産後,下肢の浮腫が増悪し,入院中及び実家にて,自身で呼吸リハを継続し,産後2週間で改善した.産後2週で腹直筋離開に対し,開業PTの施術を受け,2.5横指程度の離開から1横指に改善がみられた.また,夫も骨盤周囲・股関節・肩甲帯周囲に対するリラクゼーションの指導 を受け,自宅でのフォローアップ体制を整え,産後3週にて自宅復帰した.しかし,産後4週より,両手関節背屈10度及び橈側外転10度にて疼痛あり,腱鞘炎の診断を受けた.子供を抱く際の初動で激痛あり,沐浴など育児に不安があった.その際もオンラインで筋膜リリースの方法や子供の抱き方など相談に応じてもらい,現在は自動運動にて背屈50度まで疼痛なし.子供を抱く際の初動時の疼痛緩和傾向であり,夫の不在時の育児不安が減少した.
【考察】
 妊婦検診にて妊娠糖尿病や高血圧など内科的な数値の変化を指摘されることはあるが,呼吸数や歩容の乱れなどの異変に対し指摘を受けることは少ない.そのため,気づきが少ないまたは問題意識が低い妊婦は少なくないと考えられる.佐々木聡子は産後のトラブルに関しての病院受診は1割以下と報告している.これは医療保険下での産前産後リハはとても少なく,相談先や受け皿が明確でないことから,施術に至らないケースがあることも否めない.産前産後の歩行困難は骨格や筋など運動器の異変によるものと明らかであり,運動器不安定症のようにリハの必要性を強く感じた.
 今回,開業PTによる施術にて身体面の回復が順調であったこと及び,自宅復帰後の体調不良時にもサポートが受けられたことで心身ともに不安が軽減された.また,夫も産後ケアの指導を受けており,自宅でも疼痛出現時や疲労時に過度な指圧ではなく,適切なリラクゼーション方法でケアを受けられたと考える.
【おわりに】
 現在,PTによる産前産後のリハの参入が進み始めている.産前産後は身体の変化に加え,ホルモンバランスの乱れによるメンタルの不安定さがみられることにも考慮すると,精神科領域にも精通している作業療法士もウィメンズヘルスへの参入が期待される.