第57回日本作業療法学会

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[PN-11] ポスター:地域 11

2023年11月11日(土) 15:10 〜 16:10 ポスター会場 (展示棟)

[PN-11-2] 通常小中学校の特別支援教育地域巡回相談事業からみる教員の困り感

渡邉 清美1, 益子 史歩理2, 小賀野 操1,3, 杉原 素子3 (1.国際医療福祉大学保健医療学部作業療法学科, 2.国際医療福祉大学リハビリテーションセンターなす療育園, 3.国際医療福祉大学大学院)

【はじめに】
 研究者は2013年から現在まで,栃木県那須郡那須町において公立全小中学校を対象に那須町特別支援教育地域巡回相談事業(以下,巡回相談.現在は那須町教育支援訪問と名称変更)に参画してきた.本事業は,医療専門職に限らず地域の相談支援専門員や発達相談員,保健師など広く保健医療福祉労働の専門職が巡回相談員となり,その地域で成長する子ども達に,今どのような支援が必要であるかを学校の教員と共に検討する事業である.
 本研究は,2013年度から2018年度の6年間の巡回相談において担任教員から提示された「個別の指導計画」を質的に分析し,その困り感を捉えることと,学年進行における「学習面」,「生活面」での教員の困り感の変化を捉えることを目的とした.
【方法】
 対象は,2013年度から2018年度の巡回相談で通常学級を担任している教員が特別支援を必要としていると捉えた児童生徒の「個別の指導計画」371件.個別の指導計画で「学習面」と「生活面」に分けて記載されている内容から,「つまずいている状況」を教員の困り感であると捉え,その記載を文書データとした.Nvivo12Plus for Windowsを用いて文書データを整理し学年における困り感の変化を分析した.尚,本研究は倫理審査委員会の承認および教育委員会の同意を得て実施した.
【結果】
 6年間の巡回相談の相談件数は,訪問した小中学校に在籍する児童生徒の合計9,970人に対し371件(3.72%)であった.個別の指導計画を記載した教員の属性は,男性が183人(49.3%),女性が185人(49.9%),不明が3人(0.8%)だった.年齢は22歳から59歳で,平均年齢は38.1歳だった.個別の指導計画作成対象児童生徒のうち,男子児童生徒が延べ292件,女子児童生徒が延べ79件であった.男性相談件数における学年別では,小学1年生62件(16.7%),小学2年生61件(16.4%)と多く,概ね学年が上がる毎に減少する.中学生になると,1年生27件(7.3%)で次第に減少し,中学3年生では14件(3.8%)であった.「学習面」と「生活面」では,「学習面」の困り感が多く,カテゴリーは「学習内容の理解不足」と「学習行動の未習慣化」が多い.学年別では小学2年生,次いで小学1年生,小学3年生の順に多かった.「生活面」でも同様の順だった.カテゴリーはいずれの学年も「集団からの逸脱」が多かった.
【考察】
 教員の困り感が「学習面」に多い傾向を示したことは,小中学校共に学力の獲得・向上や学習習慣の確立を目指す課題に教員の関心が高いと言える.「生活面」においては小中学校いずれも困り感の割合が大きい「集団行動の逸脱」は,学校における円滑な友人関係の構築や学級運営の問題であると捉えており,集団行動の課題を有する児童生徒の対応に意識を向ける傾向がある.しかし,教員のこれらの課題は学年が上がる毎に学校生活に慣れ,友人関係が構築され,子ども自身の社会的機能が成熟してく中で消退していくと考えられる.児童生徒の育ちを支えるには,学年毎の教員の困り感の実態を踏まえ,保護者と担任の連携や教科担当教員と学級担任,地域の保健医療福祉専門職と学校が連携することが必要であり,重要である.