[PN-2-1] バーチャルリアリティを利用した統合失調症を持つ人の居場所作り支援の実践報告
【はじめに】
統合失調症を持つ人の強い孤独感は,地域への所属感と関連することが示されている(Shioda, 2016).所属感を得るための学校,職場を含むコミュニティへの参加には他者との交流を伴うが,交流する相手との関係性によっては自己開示が難しくなることが指摘されている(丹羽, 2010).当事者が安心して自己開示して他者とつながれる場としてピアサポートや当事者研究等の活動があるが,現状では実践施設が限られる.
「もりのへや」は統合失調症を持つ当事者のVtuberが作成した当事者のための居場所であり,仮想現実(バーチャルリアリティ: VR)において顔を出さずアバターによる交流を可能にしている.これまでの活動とアンケート結果を振り返り本活動の意味と可能性について考察したので報告する.なお,本報告にあたりアンケート結果を利用することを参加者に文章で説明し同意を得た.
【方法】
「もりのへや」は月に1回開催されており,医療資格がない者と有資格者(医師,心理士,OTR)で構成される運営メンバーで事前打合せと振り返りを毎回行っている.VR機器を所持していなくても,パソコンやスマートフォンからも参加できる.参加案内はインターネット上で告知され,応募者は統合失調症の診断を受けていることを条件にソーシャルネットワークに登録可能である.開始時は場のルールが説明され,トークテーマが提示された中で自由な交流が促される.今回は,2022年7月~2023年1月の計7回の終了時にアンケートによる「感想」「参加後の変化」「次回参加の希望」を問う選択肢への回答とコメントの自由記載を依頼した.
【結果】
2023年1月時点で登録者は49名,計7回の参加者は累計124名,1回あたり11名~24名だった.OTRは事前準備時に交流を促進する人数設定やトークテーマの案等を挙げ,運営メンバー全体で決定した.参加者は趣味や仕事の話題の他に苦労の体験について語り合っていたが,その中で会話に参加していない参加者にはスタッフとして声かけをおこなった.
アンケートは124名に依頼し80件の返信があった(回収率65%).そのうち「感想」への回答は79件で「(とても)良かった: 75,どちらでもない: 4」,「参加後の変化」への回答は77件で「あった: 50,なかった: 27」,「次回参加の希望」への回答は79件で「次回も(とても)参加したい: 72,どちらでもない: 7」であった.自由記載では「同じ病気を持つ人同士で話せて落ち着く」「顔が見えなくて良い」「居場所が1つ増えた気がする」等の肯定的な意見がみられたが,「もっと病気のことを話したい」「もっと話せるようにスタッフに助けてほしい」等の具体的な要望もみられた.
【考察】
アンケートの結果から,統合失調症を持つ当事者はVRを用いて語り合う場において,落ち着く感覚や居場所を得た感覚を得ていた.「顔が見えないことが良い」という意見もあり,VRが持つ匿名性が寄与した可能性がある.一方で,「もっと話したかった」という意見からは,参加者の表情をスタッフが読み取って促すことができなかった可能性もある.
精神疾患をもつ当事者の同様の疾患や障害をもつ人への自己開示量と情緒的支援ネットワークおよびリカバリーとの間の関連が報告されている(横山, 2020).「もりのへや」は,匿名性ゆえに安心して自己開示,とくに病気の体験を分かち合える場として肯定的に捉えられ,対話継続を望む意見も多いことから,地域生活を送る統合失調症を持つ当事者のリカバリーをさらに促進できる可能性がある.
統合失調症を持つ人の強い孤独感は,地域への所属感と関連することが示されている(Shioda, 2016).所属感を得るための学校,職場を含むコミュニティへの参加には他者との交流を伴うが,交流する相手との関係性によっては自己開示が難しくなることが指摘されている(丹羽, 2010).当事者が安心して自己開示して他者とつながれる場としてピアサポートや当事者研究等の活動があるが,現状では実践施設が限られる.
「もりのへや」は統合失調症を持つ当事者のVtuberが作成した当事者のための居場所であり,仮想現実(バーチャルリアリティ: VR)において顔を出さずアバターによる交流を可能にしている.これまでの活動とアンケート結果を振り返り本活動の意味と可能性について考察したので報告する.なお,本報告にあたりアンケート結果を利用することを参加者に文章で説明し同意を得た.
【方法】
「もりのへや」は月に1回開催されており,医療資格がない者と有資格者(医師,心理士,OTR)で構成される運営メンバーで事前打合せと振り返りを毎回行っている.VR機器を所持していなくても,パソコンやスマートフォンからも参加できる.参加案内はインターネット上で告知され,応募者は統合失調症の診断を受けていることを条件にソーシャルネットワークに登録可能である.開始時は場のルールが説明され,トークテーマが提示された中で自由な交流が促される.今回は,2022年7月~2023年1月の計7回の終了時にアンケートによる「感想」「参加後の変化」「次回参加の希望」を問う選択肢への回答とコメントの自由記載を依頼した.
【結果】
2023年1月時点で登録者は49名,計7回の参加者は累計124名,1回あたり11名~24名だった.OTRは事前準備時に交流を促進する人数設定やトークテーマの案等を挙げ,運営メンバー全体で決定した.参加者は趣味や仕事の話題の他に苦労の体験について語り合っていたが,その中で会話に参加していない参加者にはスタッフとして声かけをおこなった.
アンケートは124名に依頼し80件の返信があった(回収率65%).そのうち「感想」への回答は79件で「(とても)良かった: 75,どちらでもない: 4」,「参加後の変化」への回答は77件で「あった: 50,なかった: 27」,「次回参加の希望」への回答は79件で「次回も(とても)参加したい: 72,どちらでもない: 7」であった.自由記載では「同じ病気を持つ人同士で話せて落ち着く」「顔が見えなくて良い」「居場所が1つ増えた気がする」等の肯定的な意見がみられたが,「もっと病気のことを話したい」「もっと話せるようにスタッフに助けてほしい」等の具体的な要望もみられた.
【考察】
アンケートの結果から,統合失調症を持つ当事者はVRを用いて語り合う場において,落ち着く感覚や居場所を得た感覚を得ていた.「顔が見えないことが良い」という意見もあり,VRが持つ匿名性が寄与した可能性がある.一方で,「もっと話したかった」という意見からは,参加者の表情をスタッフが読み取って促すことができなかった可能性もある.
精神疾患をもつ当事者の同様の疾患や障害をもつ人への自己開示量と情緒的支援ネットワークおよびリカバリーとの間の関連が報告されている(横山, 2020).「もりのへや」は,匿名性ゆえに安心して自己開示,とくに病気の体験を分かち合える場として肯定的に捉えられ,対話継続を望む意見も多いことから,地域生活を送る統合失調症を持つ当事者のリカバリーをさらに促進できる可能性がある.