第57回日本作業療法学会

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ポスター

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[PN-2] ポスター:地域 2

2023年11月10日(金) 12:00 〜 13:00 ポスター会場 (展示棟)

[PN-2-6] Smedley型握力計およびJamar型握力計の測定値の相違がサルコペニアの診断に与える影響

秋山 慶文1, 村杉 冴香1, 坂田 綾子1, 村口 英恵2, 竹中 宏幸1 (1.医療法人社団豊生会東苗穂病院リハビリテーション部, 2.医療法人社団豊生会介護老人保健施設ひまわり)

【背景】加齢に伴う筋機能の変化として筋力の低下および筋肉量の低下が知られている.筋肉量の減少を診断の必須項目とするサルコペニアは,高齢者の予後に悪影響を及ぼすことが多数報告されている.また,サルコペニアの評価項目である筋力評価には握力が頻用されている.欧米ではJamar型握力計(以下,J型)が広く用いられており,本邦のサルコペニア診療ガイドライン2017年版一部改訂においてもJ型の使用を推奨している.しかし,本邦ではSmedley型握力計(以下,S型)を用いることが多く,S型とJ型の測定値の違いやサルコペニアの診断に与える影響は明らかではない.
【目的】S型およびJ型の測定値の相違を検証し,サルコペニア有症割合に与える影響を明らかにするとともに,S型測定値からJ型測定値を予測するための簡便な推定式を作成する.
【方法】地域在住の健常高齢者161名(77.4±6.2歳,男性29名)を対象とした.握力測定はS型およびJ型の標準的な測定手技に従い,ランダム順に左右1回ずつ測定した.その他の評価指標は,基本属性として年齢,性別,Body Mass Index,利き手,身体機能指標として通常歩行速度,5回椅子立ち上がり時間,Timed Up and Go,体組成指標としてIn BodyS10を用いてSkeletal Muscle Mass Index(SMI)を測定した.また,サルコペニアの診断はAsian Working Group for Sarcopenia 2019の基準に従い,握力の左右最大値およびSMIにより判定し,S型,J型使用時における有症割合を算出した.統計解析は,左右別にS型とJ型の相関分析をPearsonの積率相関係数により実施した.次にS型とJ型の差の平均値について95% Confidence Interval(CI)を求めた.また,目的変数をJ型測定値,説明変数をS型測定値,年齢,性別としてステップワイズ法を用いて重回帰分析を行い,J型測定値の推定式を作成した.解析ソフトはEZRver1.61を用い,有意水準はいずれも5%とした.本研究はヘルシンキ宣言に従い倫理と個人情報に配慮し,口頭での説明と書面による同意を得た.
【結果】S型とJ型の相関係数は,右(r=0.84,95%CI:0.79-0.88,p<0.001),左(r=0.87,95%CI:0.83-0.91,p<0.001)であり強い正の相関を示した.S型とJ型の差の平均値は,右(3.4kg,95%CI:2.8-4.0),左(3.8kg,95%CI:3.2-4.3)であり,S型が高値を示した.握力をS型,J型で測定したときのサルコペニア該当者数,有症割合は順に22例,13.7%,28例,17.4%であった.回帰分析では,J型測定値の予測因子として,左右ともにS型測定値のみが有意な因子として抽出され(いずれもp<0.001),右(切片=1.27,β=0.80,95%CI:0.72-0.88,自由度調整済み決定係数=0.71),左(切片=-0.18,β=0.84,95%CI:0.76-0.91,自由度調整済み決定係数=0.76)であった.
【考察】左右ともに差の平均値はS型の方が高値であった.要因としては,測定肢位や握力計の構造の違いが測定値に影響を及ぼした可能性が考えられる.この違いによりサルコペニアの診断においては,J型を用いた方が多くの有症者を同定でき得る.したがって,サルコペニアの早期発見の観点からは,J型を用いる方が有用である.一方でJ型は実臨床では普及しているとは言い難い.そのため,本研究で得られたJ型の推定式(右:1.27+0.80×S型測定値,左:-0.18+0.84×S型測定値)を加味したうえでサルコペニアの早期発見を図り,適切な対策に繋げる必要がある.将来的には,S型とJ型の測定値が異なることを前提に,サルコペニアの握力の診断基準をそれぞれ設定するべきである.