第57回日本作業療法学会

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[PN-3] ポスター:地域 3

2023年11月10日(金) 13:00 〜 14:00 ポスター会場 (展示棟)

[PN-3-11] 一般工場の高齢受刑者への健康運動指導の経過とCOVID-19流行の影響

後藤 啓士郎1,2, 松岡 明子1,3, 村田 美希1,4, 野尻 明子1,5 (1.熊本県作業療法士会刑務所支援チーム, 2.済生会熊本病院, 3.グループホーム ヒューマンケア富合, 4.くまもと青明病院, 5.清藤クリニック)

【背景】熊本県作業療法士会では刑務所から依頼を受け,心身機能の低下等の問題を抱える高齢受刑者に健康運動指導を実施している.健康運動指導は,2018年より一般工場に就業困難な養護的処遇受刑者を対象として開始した.第53・54回日本作業療法学会では,作業療法士(以下,OT)が行う健康運動指導の効果として,養護的処遇受刑者の身体機能・認知機能・QOLの改善,社会性の回復,対人関係の改善等の可能性が示唆されたことを報告した.
 2019年からは一般工場の高齢受刑者へ対象を拡大し実施している.そのような中,2020年1月に国内初のCOVID-19罹患者が報告された.以降,COVID-19罹患者は増え,感染拡大を防ぐために提言された新たな生活様式(厚生労働省,2020a)によって,高齢者の活動機会の減少や医療・介護施設における活動制限等が生じている.刑務所も例外ではなく,外部講師であるOTの健康運動指導頻度の低下,刑務所内の活動制限(2022年8~9月の2か月間,受刑者は自室内中心の生活)等の影響があった.
 今回,それらのCOVID-19流行の影響を含め,2019年4月から実施している一般工場の高齢受刑者への約3年9か月間の健康運動指導の経過を振り返り,身体機能・認知機能・QOLの変化を検証した.
【方法】対象;平均70代後半の一般工場の高齢受刑者A,B,Cの3名.
健康運動指導;ストレッチ,筋力トレーニング,コグニサイズをOT2名が毎週1回,1時間程度実施した.対象者には体操日誌として日々の運動実施状況と困ったことや感想の記述を求め,OT介入時にその日誌をもとに振り返りを行った.
効果判定;①介入前(2019年3月),②1年5か月後(2020年8月),③3年9か月後(2022年12月)に実施した身体機能(握力,開眼片脚立位時間,Timed Up and Go Test,5m通常・最大歩行時間)/認知機能(Montreal Cognitive Assessment)/QOL(EuroQol-5 Dimension-5 Level)の評価結果を比較し,各項目を「改善」,「維持」,「低下」とした.
健康運動指導頻度(月平均の実施回数);①~②の期間は2.5回,②~③の期間は1.4回であった.
その他;対象者より健康運動指導の感想を聴取した(2022年11月).なお,対象者へは刑務所を通じて研究・発表について説明し同意を得ている.
【結果】身体機能/認知機能/QOLの項目において,①に比し②はA;低下/改善/維持,B;改善/改善/改善,C;維持/改善/維持,②に比し③はA;低下/低下/維持,B;低下/低下/改善,C;低下/低下/維持であった.感想では,「コグニサイズがきっかけで辞書を使うようになった」,「社会の先生(OT)と体操日誌を通して会話ができ,良いコミュニケーションになっている」,「人と会話ができるようになった」等があった.
【考察】介入前に比し,1年5か月後は身体機能・QOLに大きな変化はなかったが認知機能は改善を示し,健康運動指導の効果があったと考えられた.介入1年5か月後に比し,3年9か月後の身体機能・認知機能の低下はCOVID-19流行による健康運動指導頻度の低下と2か月間の活動制限の影響があったと推察された.しかし,QOLは低下を示さなかった.Spilker B.は,QOLを構成する領域の1つに社会的交流を挙げている.受刑者の生活は一般社会と比し,感染拡大防止のための2か月間の活動制限以外は刑務作業や行事を含めた活動制限は限定的であり,刑務所内の社会的交流は通常であった.また,外部講師であるOTとの直接的な交流は減少したが,体操日誌を通した連続性のあるコミュニケーションは継続できていた.聴取した感想からは,対象者にとって体操日誌を通したコミュニケーションは外部との社会的交流の機会であったことが伺えた.これらCOVID-19流行による社会的交流の減少が最小限であった背景が,QOLの低下を示さなかった一因であったと考えられた.