第57回日本作業療法学会

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[PN-4] ポスター:地域 4

2023年11月10日(金) 15:00 〜 16:00 ポスター会場 (展示棟)

[PN-4-1] 中等度記憶障害がある方の復職に向けた様々な支援と工夫

巴 美菜子, 濱田 和秀, 家門 匡吾, 萩原 敦 (NPO法人クロスジョブ)

【はじめに】
 就労移行支援とは訓練を通して内省を深め自身の状況に応じた適職を確認し,障害があっても就職や復職後に職場で長く働き戦力になるための必要な支援,との認識は医療福祉領域にとどまらず,企業で雇用管理を担う方々の間でも徐々に浸透していると感じる.しかし就労支援と一口で言えど,支援や工夫の展開はそれぞれの施設で大きく異なり,その支援方法一つで対応できる幅や職域は大きく変わる.極端な言い方をすればAという支援では就職できなかったが,Bという支援では就職できた.というパターンも十分あり得る.
 当法人では立ち上げ当初から日々の支援に関する議論を重ねる事や,OT等専門職の配置を進める事で,「目に見えない障害」と例えられる高次脳機能障害があっても働けるための支援や工夫を日々アップデートしてきた.ご本人の状況に応じた支援や工夫が可能性を広げる一助になることを一人でも多くの方に知って頂きたく,中等度記憶障害がある方が復職に至った経緯を紹介する.
【ケース紹介】
 50代後半のA氏は,学生の就職支援などの職務に携わっていた.しかしくも膜下出血を発症し休職を余儀なくされ自立訓練施設で1年ほど入所訓練を受けていたが,復職の期日が迫っていることもあり施設からの紹介で復職を目的として当法人を利用することとなった.発症から約2年が経過した頃である.利用開始時はどことなくボーっとした印象が拭えず,自立訓練施設から頂いた検査結果(中等度記憶障害と軽度注意障害)を参考に様々な訓練を通して,症状の特性や環境による苦手さ,残存している能力や工夫により克服できること等あらゆる角度から全体像の収集に努めた.
【経過】
 聴覚記憶だけでは直後から抜けがあること,情報量が多いと処理が追い付かないこと,細かい時間管理は苦手なこと,作業の進捗管理が苦手で前日の続きが分からなくなること等により業務に支障をきたすことが確認できた.また,メモ取りが習慣化されていない影響も大きかった.その反面,状況判断力は保たれており周囲の状況を見て行動できること,ファイリングやラミネートなど工程数が少なく体を動かして覚える作業や,反復によって修得できる作業は強みとなることが想定できた.また,忘れてしまってもメモや手順書などの手がかりをきっかけに思い出せることも支援組み立ての手掛かりとなった.
 これらの状況から職場復帰に向けてご本人が使いやすい工夫の定着をしていくこと,障害状況の気付きを少しずつ深めていくこと,復職先企業にご本人の障害理解を促すことを目的に,企業実習や復職前のリハ出勤,障害理解の講座などに取り組む中で復職に繋がった.
 復職後の2週間は,各作業の手順書作成,作業時のミスを軽減するアイテム,報連相に関する周囲の方々への配慮依頼など,実に様々な工夫を駆使しご本人,企業,支援者の三人四脚で取り組んだ.
【結果・考察】
 途中上手くいかないことに対しイライラが表出する場面もあったがキーパーソンとの連携により乗り越えることができた.それまでは「こんな仕事しかできない」と吐露されることも少なからずあったが,復職から2週間経過する頃には「どんな仕事でも今自分に出来ることをコツコツ頑張っていこう」と前向きな発言が聞かれた.ご本人の前向きな発言は同じ状況で悩む方々の希望になるだけでなく,「この支援は果たして適切か?」と日々自問自答する支援者にとっても何より嬉しく活力となる.また,支援方法や工夫一つで出来ない事も出来る様になる,という意識を常に持ち続けることが復職への一つのポイントであったと考える.当日は,様々な工夫を写真も掲載して紹介する.