第57回日本作業療法学会

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ポスター

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[PN-4] ポスター:地域 4

2023年11月10日(金) 15:00 〜 16:00 ポスター会場 (展示棟)

[PN-4-12] 生活期で働く作業療法士が感じる作業療法実践の不全感

清水 一輝 (愛知医療学院短期大学)

【はじめに】作業療法の対象となる障害の当事者は,医療専門職からのパターナリスティックな医療の提供により様々な不全感を感じていることが報告されている(池之上,2009・熊谷,2020・鈴木,2021).その一方で,医療専門職としての作業療法士は,アイデンティティが揺らぎやすい専門職である(長谷ら,2001)とされており,作業療法士も作業療法実践において様々な不全感を感じている可能性があると考えられる.作業療法士の専門性を活かした実践にはいくつかの障壁がある(梅崎ら,2008)ことがすでに報告されているが,本研究では,生活期で働く作業療法士が作業療法実践で感じている不全感を明らかにすることを目的とする.これにより,作業療法を提供する際にどのような場面でどのような不全感を感じているのか,その詳細を明らかにし,アイデンティティが揺らぎやすい作業療法士のアイデンティティ形成を促すための一助とする.
【方法】作業療法実践における困難さを感じている作業療法士を合目的的サンプリングにて抽出し,インタビューの同意が得られた2名の作業療法士を対象とした.対象者には書面を用いて研究について説明し同意を得た.作業療法実践でどのような不全感を感じているのか,なぜそのような不全感を感じているのかをインタビューガイドとし,作業療法実践の不全感を聞き取れるように半構造化面接を実施した.インタビューはオンラインにて実施し,インタビュー時間はA氏(老人保健施設勤務,資格所得後経験年数17年,)67分,B氏(訪問看護ステーション事業所勤務,資格所得後経験年数12年)86分であった.インタビューの内容から逐語録を作成し,オープンコーディングにて質的に分析した.分析した結果は研究協力者に発言の意図との齟齬がないかの確認を依頼した.本研究は所属機関の倫理委員会にて承認を得て実施した.
【結果】A氏:<対象者との権力関係>が常に存在しており,対象者との関係の築きにくさを感じている.また,<流動的な対象者の思い>により,対象者の発した言葉の意図を捉えることが難しく,その思いを受け止める<セラピストの負担感>も感じる経験をしていた.それに加え,<治ることを強要する社会>が存在していることで,対象者から<求められていない専門性>があることも経験していた.
B氏:他職種と協働しながら対象者支援を行う中で,<作業療法士の役割を超える課題>に直面することがあるが,<他職種の専門性への配慮>が必要とされるため,課題の解決につながりにくい経験をしていた.また,<対象者との権力関係>においては,対象者の意向が優先されやすいことから<求められない専門性>があることを経験していた.
【考察】対象となった2名は,作業療法士と対象者との権力の差や,対象者や他職種との関係性による不全感を経験していた.また,作業療法士の専門性を発揮しにくい場面による不全感の存在も明らかとなった.そのような不全感には,作業療法実践の現場だけに留まらない社会の課題が影響を及ぼしている可能性も示された.以上のことから,作業療法実践の不全感を解消するためには,作業療法実践の現場だけでなく,社会に働きかけるような作業療法の取り組みが重要となる可能性が考えられる,今後はさらに対象者を増やし,様々な実践領域での不全感を捉えられるように研究を発展させていきたい.