第57回日本作業療法学会

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ポスター

地域

[PN-4] ポスター:地域 4

Fri. Nov 10, 2023 3:00 PM - 4:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PN-4-5] 作業に焦点を当てた自分史作成が高齢者に与える効果

鈴木 達也, 栗田 洋平 (聖隷クリストファー大学)

【はじめに】
 自分史はこれまでの人生を回想し人生の再評価やこれまで生きてきた証を残すことができ,情動や意欲に良い効果をもたらすものとして高齢者に用いられている.今回,地域のまちづくり協議会と共同で地域住民を対象とした自分史作成プログラムを実施した.プログラムでは学生が参加し作業に焦点を当ててインタビューを実施し人生を聞き取った.本プログラムが高齢者に与える影響について生活面,心理面,QOLの面の効果と今後の課題を報告する.
【方法】
 プログラムは2022年8月と9月に各2時間,計2回実施した.1回目は作業に焦点を当てたインタビューを実施した.参加者には事前にライフストーリーカルテ(田中ら,2014)を記載し持参してもらうようにした.プログラムは学生スタッフが参加し,1人の参加者に対して1,2名の学生がライフヒストリーカルテを元にインタビューを実施し,どのような作業が参加者にとって重要なのかを聞き取るようにした.2回目のプログラムでは自分史に含めたい内容や写真を持参してもらい自分史を作成した.プログラムの効果を明らかにするため,日常生活の活動度を知るためのFAI(Frenchay Activities Index),QOL評価である生活満足度LSI-Z(Wood,1969),いきがい評価のIkigai-9(今井,2012)を1回目のプログラム前と2回目のプログラム後に回答を得て比較した(Mann-Whitney U検定).また心理面ではPOMS-2短縮版を1回目・2回目の各プログラム前後で回答を得て比較した(Wilcoxsonの符号順位検定).2回目のプログラム実施から1週間後に自由記述式でプログラムに参加した理由,感想,自分史作成後の変化について郵送で回答を得た.得られた量的データは統計処理し自由記述式回答は集計し特徴を捉えた.なお本研究は所属施設倫理委員会の承認(承認番号22023)と対象者に研究参加の同意を得て実施した.
【結果】
 参加者は男性5名,女性5名の10名.プログラム前後で,FAI,LSI-Z,Ikigai-9に有意な変化は見られなかった.一方,POMS-2 短縮版は全体的に良好な変化が見られており,インタビュー中心の1回目ではF(友好)の増加とTMDの減少に有意な変化(p<0.05)が見られた.自分史作成の2回目ではDD(抑うつ-落ち込み),FI(疲労―無気力)に有意な減少(p<0.05)が見られた.自由記述式の回答では参加理由について,「もともと興味があった」,「自分の人生を振り返り整理したい」,「子孫に残したい」という回答が多かった.自分史作成の感想については「学生が話を聞いてくれたこと」を述べる参加者が多く,「自己を振り返る機会になった」と回答が得られた.自分史作成後の変化として,「特に変わりがない」と回答した者もいる一方で,「今後を精一杯生きたい」,「自分史に書けることをやっていきたい」,「これまでは家族のことを優先していたが自分のことを優先してやってみようと思うようになった」などの回答が得られた.
【考察】
 各回のプログラムでPOMS2短縮版の回答に有意な変化が見られた.インタビュー中心の1回目では学生との交流もありF(友好)の向上と,人生経験を語ることでTMDが減少したと考えられる.自分史作成の2回目では作業に焦点を当てた自分史が完成することで人生を前向きに振り返ることでDD(抑うつ-落ち込み)とFI(疲労―無気力)の有意な減少つながったと考えられる.自分史作成がいきがい感に変化を与えた報告があるが(古角ら,2021)今回は自分史作成ではいきがいなどには変化は見られなかった.今後,作業に焦点を当てた自分史作成が参加者の生活に良い影響を与えられるようプログラムを改善していく.