第57回日本作業療法学会

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ポスター

地域

[PN-7] ポスター:地域 7

Sat. Nov 11, 2023 10:10 AM - 11:10 AM ポスター会場 (展示棟)

[PN-7-4] 就労支援期にある精神障がい者の身体機能に関する予備的研究

森川 孝子1, 中前 智通1, 阪井 一雄1, 山本 大誠2 (1.神戸学院大学総合リハビリテーション学部, 2.東京国際大学健康医療学部)

【はじめに】2018年に精神障害者が雇用義務の対象となって以降,企業からの精神障害者の求人数は増加傾向にあるが,就職1年後の定着率は50%を下回っている.その理由として,厚生労働省は仕事内容や賃金等の労働条件,職場の雰囲気,人間関係,体力低下などを報告している.一般的に精神障害者の体力低下には,疾患特性や運動協調性の障害,薬物療法の副作用の影響が強く作用することは知られているが,就労支援期にある精神障害者の体力について調査した報告は少ない.
【目的】本研究の目的は,離職理由の1つである体力(以下,身体機能)に着目し,就労支援期にある精神障害者の身体機能評価を実施してその実態について明らかにすることである.なお,本研究は著者の所属機関の倫理審査委員会の承認を受けて実施した.
【対象】対象は,就労支援として精神科・デイケア(以下,デイケア),就労継続支援B型(以下,B型),就労移行支援(以下,移行支援)を利用しており,本研究の目的について口頭および書面にて説明し,書面にて同意が得られた精神障害者とした.
【方法】調査では,①基本属性,②主観的評価(主観的健康観,主観的体力,就労意欲を5段階評価),③身体機能評価(文部科学省新体力テストの項目の一部,棒落下検査,片脚立ちテスト,6分間歩行,厚生労働省編一般職業適性検査)を実施した.統計処理は身体機能評価においては,性別で群分けし,平均年齢に相当する健常者データと比較した.また,デイケア群,B型群,移行支援群の3群における身体機能および主観的評価(健康観,体力,就労意欲)についてKruskal-Wallis検定,post-hoc検定としてSteel-Dwass法を用いた多重比較を行った.統計学的有意水準は5%とした.
【結果】対象者は39名(男性29名,女性10名),平均年齢は40.0±8.9歳であった.疾患名は統合失調症が71.8%で最も多く,入院経験が者は10名,ある者は29名であった.就労経験がある者は27名であり,そのうち障害を開示していた者は11名であった.
主観的評価では,主観的健康観においてデイケア群よりもB型群の方が有意に高かった(p<.05).身体機能評価では,実施した新体力テストの結果において用いた検査すべて文部科学省の男女別年齢別平均値よりも男性,女性ともに低下していた.中でも男性,女性共に上体起こし(筋持久力)が他の項目に比べて最も低下しており,健常者の平均値を100%としたときに男性では52.8%,女性は40.8%であった.
【考察】本研究では,就労支援期にある精神障害者における著しい体力低下が明らかとなった.精神障害者の体力の低下は,陰性症状である意欲や活動性の低下,易疲労性などによって引き起こされる運動不足が原因の1つと考えられる.また,昼田(2007)は,統合失調症患者は動作や反応がのろく不器用,歩くときに手を振らないといった俊敏さや協調運動の障害がみられ,姿勢制御のフィードバック機構や目と手の協応不全や反応時間の遅延といったことが体力低下を引き起こす原因と考えられると述べており,対象者に統合失調症の割合が多かった本研究結果を支持するものと考える.
就労支援において,実際の仕事のトレーニングや認知機能,社会性認知などに対するトレーニングが主流であるが,働く体力そのものを向上するためのアプローチも就労を継続し,定着率を高めるために不可欠であると考えられる.
【引用文献】
昼田源四郎:改訂増補 統合失調症患者の行動特性-その支援とICF-.2007