第57回日本作業療法学会

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[PN-8] ポスター:地域 8

2023年11月11日(土) 11:10 〜 12:10 ポスター会場 (展示棟)

[PN-8-1] 作業療法士として関わった地域におけるパラスポーツイベントの報告

吉田 祐太1, 須藤 明紀2, 山下 優3, 安藤 岳彦4 (1.介護老人保健施設めぐみの里, 2.堀江病院, 3.土浦リハビリテーション病院介護医療院, 4.介護老人保健施設ひまわりの里)

【はじめに】昨今パラスポーツが自治体のイベントとして取り上げられることも多くなっている.
スポーツ庁によるスポーツ基本計画内の重点的に取り組むべき施策の一つとして,スポーツに「誰もがアクセスできる」がある.しかし,筆者が活動している神奈川県秦野市のパラスポーツイベントにおいて,健常者の参加は増えた一方,障害者の参加は減少していた.秦野市にはパラスポーツをきっかけとした地域連携を構築した理学療法士(以下PT)がおり,パラスポーツを楽しめる場を作り,人々が集まり,多くの人々がアクセスしやすい環境を作ってきた.共に活動する中で,ヒアリングで得られた課題に対し作業療法士(以下OT)として場を「はぐくむ」,あつまった人々が「ともに,つながる」,さらには社会参加に弊害のある人も「アクセスできる」環境を作るための活動を経験したため報告する.
【活動目的】地域のパラスポーツイベントにおける地域課題に対し,OTが関わる意義を模索し,地域リハビリテーションのより一層の活性を図る.
【活動報告】
1.パラスポーツ関連事業への参画:秦野市では,既存の事業としてスポーツ協会主催のパラスポーツイベントにPTが1名参加.加えて社会福祉協議会と連携し新規の事業として車いすバスケやボッチャが扱われる体制を構築した.筆者は2019年より従事する運びとなった.
2.ヒアリングで抽出された共通課題:まず,参加者と主催者へのヒアリングを実施.参加する障害者から「体験したいが,競技用車いすへの移乗や操作などに不安と恐怖を抱いている」が聴取され,参加自体のハードルの高さがあった.主催者からは「安全面を考慮し,体験ではなく見学を選択することが多い,個々に応じた方法やルール設定が難しい,結果的に障害者の参加が減少している状況」と聴取され,障害者もスポーツに参加できる方法が分からない状態であった.
3.上記課題に対する支援内容:参加者へは,体験前に潜在的なニーズを聴取し,残存機能から得る可能性を探ることを中心に介入した.主催者へは,障害特性に合わせた支援方法やリスク管理などの助言,移乗,シーティングの改善に向けた助言を行った.また,双方に対し,安全にスポーツができる方法や環境の提案を実施.また参加者だけに限らず,教員や保護者に対しても,OTの支援が見える形で関わることを意識した.
4.車いすバスケスクール創設:既存の上記イベントに興味を持った参加者が,継続的な活動に繋げられる場として新たに2022年4月に創設し,現在総務として活動中である.
【結果】物理的環境の調整,残存機能が活かせる助言を通し, 障害者が見学に留まらず,一般参加者と共に体験することができた.行政や教育現場からは「参加者目線に立ったイベント開催にあたり,療法士の支援が受けられると参加者の安心が確保できる」と聴取され,現在も継続的な依頼に繋がっている.さらに,既存のイベントの参加者が,新設したスクールへ見学に来る機会が増え,継続的な活動の場としての役割を提供できた.
【考察】パラスポーツイベントにて,障害の有無に関わらず「スポーツを始める最初の一歩を支援する」視点においてヒアリングを実施した.参加者と主催者双方から聞かれた課題を,作業的に捉え,双方にとっての壁を最小化することができたのは,課題自体を作業的に分析し対応するOTの専門性の効果であると考える.当事者に対する直接的支援だけでなく,主催者への専門的な助言を通して,参加への橋渡しができたと考える.地域におけるパラスポーツイベントに専門職が関わることで,障害者はイベントに参加しやすく,一般参加者と「ともに,つながる」の促進が図れるのではないかと考える.