第57回日本作業療法学会

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ポスター

地域

[PN-9] ポスター:地域 9

2023年11月11日(土) 12:10 〜 13:10 ポスター会場 (展示棟)

[PN-9-3] 高齢入居者を対象とした調査から検討するA市B地区の災害公営住宅の包括的環境

伊藤 明海1, 小野 治子1, 光永 憲香2, 芳賀 恭司3, 石附 敬3 (1.東北福祉大学健康科学部, 2.東北福祉大学健康科学部保健看護学科, 3.東北福祉大学総合福祉学部)

【序論】
昨今の大規模化する自然災害では,中長期な生活再建という環境への適応に迫られる.作業は環境に影響を受けるが,2011年の東日本大震災の災害公営住宅の環境やそこに住む住民の作業についての調査をするために,まず,10年が経過した現在の災害公営住宅の環境について試行的に調査した.
【目的】
災害公営住宅の高齢入居者のquality of life(QOL)に影響を与える現在の環境の特徴を包括的に明らかにすること.
【方法と倫理的配慮】  
対象は, A市B地区の災害公営住宅の高齢入居者.社会福祉協議会を通した協力要請を行い,研究者が研究計画を説明し同意の得られた8名.
方法は,2022年9月初旬に当該住宅の集会所で一人1時間程度,インタビュアーと記録者が基本情報の収集と包括的環境要因調査票(Comprehensive Enviromental Questionaire;CEQ)を実施した.CEQは地域在住高齢者のQOLに影響する環境要因を包括的に評価することを目的とし,「QOLに影響する環境」を上位因子とした「因子Ⅰ:安心生活環境(6項目)」「因子Ⅱ:相互交流環境(6項目)」「因子Ⅲ:家族環境(2項目)」の3因子14項目の二次因子モデルである.2つの質問があり,質問1では14項目の環境要因について現在どのくらいあると感じているかを「1:全くない」から「4:十分ある」の4件法で調査する.質問2は満足した生活を送るために今よりも変えたい環境を14項目から最大3つ選び理由を挙げる.その後,改善すべき環境について専門職と話し合い具体的な状況を記載する.分析は,CEQのスコアを算出し,CEQの質問1と2の語りから作成した逐語録は計量テキスト分析ソフトKHコーダーversion3を用いて,階層的クラスター分析を行った.
本研究は本学の倫理審査委員会の承認を得て実施された.
【結果】
対象者の平均年齢は78.38±7.23歳.男性3名女性5名.単身生活者は5名.すべて公営住宅稼働当初から入居する自立生活者.CEQの平均スコアは因子Ⅰ17.50±2.67,因子Ⅱ18.00±3.46,因子Ⅲ4.87±1.88,合計40.37±4.80.質問1で「十分ある」「ある」の回答で100%となった設問は,⑥「医療・福祉サービス」⑧「友人・知人との関係」⑫「外の人と自由に通信できる」.75%は,①「落ち着いた気分」③「快適な住環境」④「安全な住環境」➉「外出しやすい」⑪「必要な情報が得られる」⑬「家族環境が良好」の環境であった.「全くない」「少しある」と63%が回答した設問は,⑤「経済的に安定している」⑭「一緒に生活する人がいる」環境であった.質問2は16個が選択され, 50%が⑨「集まって人と交流しやすい環境」を選択した.逐語録は17,479字から成り,階層的クラスター分析では「家族や友人と会えている」「制度と家賃」「集う人の減少とコロナによる集いの制約」「町内の人や情報の問題と,年金生活者の経済」「生活問題と役所」の5つのクラスターが生成された.
【考察】
対象が8名で,10年の内に住宅を転出した高齢者の調査は行えていないが,CEQの結果から,現在の災害公営住宅の包括的環境は概ねバランス良くあり,クラスター分析からは家賃など経済的な不安と,町内活動の難しさが共通していると考えられた. 変えたい環境に「集まって人と交流しやすい環境」が挙げられたが, 68%が「十分ある」「ある」と回答し,要因は新型コロナの影響と考えられた.
実際の作業の支援時には,各人の作業と環境の相互作用について考えていく必要がある.