[PO-1-4] クライエントの主体的な意思決定に必要な要因の検討:
はじめに.クライエント中心の実践の成功の可否は,作業療法士とクライエントの関係性に依存するとされ,特に意思決定プロセスにおいてクライエントがいかに主体的に参加できるかが重要とされている.しかし,現状では作業療法士とクライエント間で目標の共有を図る標準的な方法はなく,どのようにクライエントの希望や意思を引き出し共有するかは各作業療法士の裁量に任されている.クライエントの主体性に基づく目標設定は,モチベーション,満足度,生活の質が向上するなどの多くの利点が報告されていることからも,意思決定プロセスにおけるクライエントの主体性について検討することは意義があると思われる.以上のことから,本研究では臨床現場で働く作業療法士を対象に,目標設定時におけるクライエントの主体的な意思決定に必要な要因を明らかにすることを目的に,質的研究を実施した.方法.クライエント中心の実践を行ったことがある医療・福祉分野に従事する作業療法士16名を対象に,フォーカスグループインタビュー(FGI)を実施した.なお,対象者数の設定は,Vaughnらの基準を参考に設定した.リクルート方法は,スノーボールサンプリング方式を採用し,紹介してもらったメンバーごとに3つのグループを生成した.FGIは質的研究経験のある第1著者が司会となり,司会者の手引きをもとに実施した.質問内容は,①クライエントの主体性に基づき目標設定が行えたことがありますか,②クライエントの主体性に基づき目標設定が行えた場合はどのような要因があったと思いますか,③クライエントの主体性に基づかない場合は何が妨げとなっていたと思いますかの3つとした.解析方法.基本属性については記述統計を実施し,インタビューによって得られたデータは逐語録を作成しKH Coder 3. Beta. 03i を用いて共起ネットワーク分析を行った.なお,本研究は新潟リハビリテーション大学倫理審査委員会の承認(承認番号218),一般社団法人日本作業行動学会の助成を受けて実施した.また,研究プロセスは, Consolidated criteria for reporting qualitative research checklistに準拠している. 結果.対象者の属性は,男性11名,女性5名,年齢34.69±6.74歳,経験年数12.44±5.67年であった.現在の所属先は,医療関連13名,介護関連2名,障害児・者関連1名であった.質問項目①については,16名全てが「はい」と回答した.質問項目②に対する抽出後の出現頻度と抽出後の共起性は,総抽出語数5219,異なり語数564,集計単位の文ケース数151,段落ケース数19であった.頻出語は,「クライエント」,「作業」,「する」などであった.質問項目③に対する抽出後の出現頻度と抽出後の共起性は,総抽出語数5880,異なり語数574,集計単位の文ケース数189,段落ケース数18であった.頻出語は,「クライエント」,「作業」,「する」などであった.また,質問項目②と③の共起ネットワーク分析では,それぞれ11カテゴリ,6カテゴリが抽出され,共通のカテゴリとして5カテゴリ(作業療法士に関する要因,クライエントに関する要因,協業関係に関する要因,振り返りに関する要因,環境に関する要因)が抽出された.これらの結果から,まずは作業療法士自身がOccupational Based Practiceに対する考え方や知識を構築しクライエントや他職種に伝え理解を仰ぐこと,加えてクライエントとの協業関係の構築の上で作業に焦点化する支援の必要性が示唆された.