第57回日本作業療法学会

Presentation information

ポスター

理論

[PO-1] ポスター:理論 1

Fri. Nov 10, 2023 3:00 PM - 4:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PO-1-5] 改訂版リーズニングシートを利用して大切な作業を共有した事例

加藤 萌1, 大野 愛弓1, 松野 由佳1, 澤田 辰徳2 (1.医療法人社団 明芳会 イムス板橋リハビリテーション病院リハビリテーション科, 2.東京工科大学医療保健学部 リハビリテーション学科 作業療法専攻)

【はじめに】作業療法とは,作業に焦点を当てた治療,指導,援助である.今回,クライエント(以下,CL)の隠された作業ニーズに対して,当院の作成した改訂版リーズニングシート(以下,シート)を使用することで作業の可能化につながった事例を経験したため報告する.なお,発表にあたり当院の倫理委員会の所定の手続きを踏み対象者への同意は得ている.
【事例紹介】60代の男性で左視床出血の診断を受け,急性期病院退院後リハビリテーション目的で当院回復期リハビリテーション病棟に入院した.妻と子供1人との3人暮らしで不動産関係の社長業の仕事をしていたが息子に引き継ぐ予定であった.
【シート】シートは当院にて職員の面接技術を高める構成的教育材料として作成された(清水ら,2017).既存の作業療法で用いられている半構成的面接による評価と併用して作業の意味,遂行文脈を共有し,CLの作業的存在としての理解を深めるためのものである.今回の改訂版では先行研究に基づく価値のカテゴリー分けなどが追加された(小瀬ら,2022).
【初回評価と経過】初回面接ではADL獲得に向けての目標が挙がった.FIMは76点で認知機能に問題は無く中等度介助レベルであった.Brunnstrom recovery stage(以下,BRS)は上肢stageⅢ,手指stageⅣであり,STEFは実施困難であった.入院初期に仕事や趣味について話題を挙げると否定的な発言が聞かれた.入院初期はADLを中心に介入し自立となった(FIM122点).本人との関係性もできたためシートを使用して面接を行うこととした.
【シートを用いた面接】COPMでは「蕎麦打ちが再開できる」遂行度6,満足度7という目標が挙がった.シートを用いて文脈聴取を行うと義理や人とのつながりを大事にしていた.依頼されたことに応えるために技術を磨くように心がけ,結果として自分に有益となることも多くやりがいを感じていた.蕎麦打ちも同様で,蕎麦打ちの会の仲間に勧められ資格を取得し,町内会やイベントで振る舞い仲間に喜んでもらっていた.このような喜びを経験させてくれた会の仲間にとても感謝していた.今回,退院後に蕎麦打ちの作業を通して上肢の麻痺が残っていてもできることを示し,会を盛り上げる役割を担い,お世話になった蕎麦打ちの会の仲間へ恩返ししたいとの語りがあった.シートのまとめから他者に貢献する事で自己を成長させ,自己超越に価値を置いていることが考えられた.
【面接後の経過】上肢の課題志向型訓練と並行して実際の蕎麦打ちによる練習を行った.蕎麦打ちでは共有した価値の自己超越に着目をし,作業療法士がCLの作った蕎麦を賞賛した.開始当初は健側優位でも体験することに主眼を置き,CLは予想よりもできると実感して主体参加が促進された.次の段階では実動作の中で麻痺手も参加した蕎麦打ちが行うように促した.CLは両手でそば打ちをすることが可能となり退院後の作業参加への自信をみせた.さらに,他者の貢献の場を設けるために,退院後に蕎麦打ち講師を行うこととなり自宅退院となった
【最終評価】BRSは上肢stageⅤ,手指stageⅤ,STEF右37点,左90点であった.COPMの蕎麦打ちは遂行度8,満足度9とともに上昇し,本人から達成感や発症後も蕎麦打ちができることを広めたいというアドボカシー的発言が聴かれるようになった.退院後の調査では蕎麦打ちの会の会報を執筆するなど,会員の一員として参加できていた.病院での蕎麦打ち講師は今後行う予定である.
【考察】シートはクライエントの価値の共有に有用であったことが推察された.その結果,CLの大切な作業が可能になる支援の一助になると考える.