第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

理論

[PO-3] ポスター:理論 3

2023年11月11日(土) 14:10 〜 15:10 ポスター会場 (展示棟)

[PO-3-1] 日本における作業科学と作業療法士の職業的アイデンティティの関係に関するスコーピングレビュー

安田 友紀1, 金子 隆生2, 大谷 将之3 (1.医療法人嘉誠会 ヴァンサンク ポルテ, 2.山形県立こころの医療センター, 3.社会福祉法人滋宏福祉会 障がい者支援センター「てらだ」)

【はじめに】
世界作業療法士連盟は,作業科学(以下OS)に関する声明書(2012)にて,OSは作業の理解を促し,作業に焦点を当てた効果的な作業療法(以下OT)実践を支えることを述べ,OSはOTにとって重要であるとした.しかし,臨床において作業に焦点を当てることの難しさを感じるが故に作業療法士(以下OTR)の専門性に悩む者も少なくない.OTRの専門性に関しては職業的アイデンティティ (Professional Identity, 以下PI)研究が散見され,近藤ら(2010)はOT学生に対するOS教育について,作業の理解を深め,OTのイメージを再認識することがPI構築に貢献する可能性を報告した.一方,OTRに対するOSとPIの関係に言及した研究は少ない.本研究は,OSとOTRのPIの関係における日本の現状を明らかにすることを目的とした.
【方法】
既存の知見を網羅的に検索・要約し,研究ギャップを特定するために,スコーピングレビューを実施した.研究疑問は,①PIについてどのように定義されているか,②OTRのPIについてどのような研究がなされているか, ③OSや作業に関する知識とPIの関係についてどのように言及されているか,とした.データベース検索は医中誌とCiNiiを使用し,研究疑問を元に作成した検索式を用いて行った(最終検索日:2022年11月26日).適格基準は,研究疑問に沿った内容に加え,OS確立後の1989年以降に発表された原著論文とした.抽出内容は,基本情報(研究目的,対象者,研究デザインなど),PIの定義と評価尺度使用の有無,OSや作業に関する記述内容とした.作業に関する記述とは,日本OT協会のOTの定義の註釈を参考とした.論文選択は2名が独立して行い,意見が分かれた際は3名で議論した.
【結果】
文献検索で特定した111編から,重複論文の除外,抄録・本文のスクリーニング後,適格基準に合致し入手可能だった10編とハンドサーチで得た3編の計13編を対象論文として採用した.研究疑問①:8編で記載があり,全般的なPI(例:職業領域における自分らしさの感覚)とOTRのPI (例:OT実践における自分らしさとOTRらしさの感覚)の2種類に分かれていた.研究疑問②:量的研究は7編で,PIに影響を与える因子を探索する目的が多く見られた.質的研究は6編で,PI形成プロセスを明らかにする目的が多く見られた.対象は,PI確立者・OT熟練者4編,若年層3編,全年齢層5編,記載なし1編であった.PI評価尺度を使用した論文は6編であった.研究疑問③:量的研究2編,質的研究4編でOSや作業に関する記載があった.内容は,OSや作業の知識を得ることによるOTR自身の臨床実践の変化,対象者それぞれの作業の変化に関わることによるOTR自身の成功体験,それらに伴うOTR像の明確化が臨床実践への自信獲得に繋がることが言及されていた.一方,作業の視点で関わるOTRの専門性が発揮できないことによるアイデンティティ獲得の諦めについても言及されていた.
【考察】
OSや作業に関する記載は質的研究で多く見られた.質的研究結果を中心に,OSや作業の知識を臨床で活用できることが,OTRのPI形成に影響を与えることが示唆された.一方,各研究で用いられたPIの定義や評価尺度は多様であり,作業に焦点を当てた実践を行うOTRの専門性を十分に捉えているかは疑問である.OTRのPIとは何かを明らかにすることが今後の課題であると考える.