[PO-3-2] 日本における作業療法士の職業的アイデンティティについて
【序論】作業療法士(Occupational Therapist Registered;以下,OTR)の職業的アイデンティティ(Professional Identity;以下,PI)に関する研究は増加傾向にある.しかし,国内のOTRのPIに関する先行研究は,尺度に関する探索的研究や施設毎のインタビュー調査が主であり,PIの形成過程に焦点を当てた報告は少ない現状にある.一般勤労者におけるPIの形成は,生産性の向上への影響があることが明らかとされており1),OTRのPI形成過程を把握することで,対象者への効果的な作業療法実践の一助に繋がる可能性があると考えた.
【目的】近年の日本における,OTRのPI形成過程に関する研究に焦点を当てた論文レビューを行い,PI形成の促進に影響を及ぼす要因を把握し,効果的な作業療法実践の示唆を得ることを目的とする.
【方法】論文検索のデータベースは医学中央雑誌,メディカルオンラインを使用した.検索対象期間は2012年1月から2022年12月とした.最終検索日は2023年1月26日である.検索用語は,(作業療法/TH or 作業療法/AL)and PI/AL or 職業アイデンティティ/AL or 職業的同一性/AL or 職業同一性/ALとした.適格基準は,内容を確認し,OTRのPI形成過程に関する原著論文とした.除外基準は,対象が作業療法学生に関する論文,尺度開発に関する論文,対象が他職種と混合している論文,自己効力感等の他の概念との比較検討を行っている論文とした.対象論文から抽出するデータは,論文内の文章を確認し,OTRのPI形成過程に関する記述の中から,要因を分類したカテゴリー名および強調表示されている語及び文脈のみを対象とした.データを抽出後,KJ法を用いて類似した内容をサブカテゴリーとして整理し,PI形成過程としてカテゴリー化した概念化を試みた.バイアスリスクとして,レビュアーが2名のみであるが,研究者バイアスがかからないよう配慮を行った.
【結果】抽出された論文は43件であった.その中で,今回の条件に合致した論文は5件の論文がデータ抽出のために選択された.また,選択した文献から93の語と文脈が抽出された.《サブカテゴリー》は《職場環境》,《基本的属性》,《社会背景》,《現在の状況》,《自分らしさ》,《業務》,《業務外活動》,《ポジティブな感情》,《ネガティブな感情》,《気づき》,《価値観の変化》,《行動の変化》,《環境の変化》の計13つに抽出された.抽出されたサブカテゴリーをPI形成過程に当てはめて概念化すると,<基盤>,<機会>,<認知>,<変化>の計4つのカテゴリーに分類された.
【結論】4つのカテゴリーから,OTRのPIの形成には,基本的属性,職場環境,現在の状況,社会背景といった基盤が関与しており,業務や業務外活動等のいわゆる機会を通して,ポジティブな感情やネガティブな感情,気づきといった認知を引き起こされる過程があると考えた.最終的には価値観や行動,環境などの変化を起こして新たな基盤を形成する過程があると考えた.この過程を繰り返すことで,OTRとしてのPIが確立していき,効果的な作業療法実践に繋がる可能性が示唆される.本研究では,抽出された論文内での対象者の基本的属性に関する分析をしておらず,PI形成に影響を与える要因に偏りが生じている可能性がある.今後は異なる基本的属性を持つ複数のOTRのPI形成に関する考えを聴取し,本研究の過程と照らし合わせることで,OTRのPIに関する理解が深まると考える.
【参考文献】
1)児玉真樹子,深田博己:生産性に関連する態度や行動に及ぼす職業的アイデンティティの影響.広島大学心理学研究(6):19-25,2006.
【目的】近年の日本における,OTRのPI形成過程に関する研究に焦点を当てた論文レビューを行い,PI形成の促進に影響を及ぼす要因を把握し,効果的な作業療法実践の示唆を得ることを目的とする.
【方法】論文検索のデータベースは医学中央雑誌,メディカルオンラインを使用した.検索対象期間は2012年1月から2022年12月とした.最終検索日は2023年1月26日である.検索用語は,(作業療法/TH or 作業療法/AL)and PI/AL or 職業アイデンティティ/AL or 職業的同一性/AL or 職業同一性/ALとした.適格基準は,内容を確認し,OTRのPI形成過程に関する原著論文とした.除外基準は,対象が作業療法学生に関する論文,尺度開発に関する論文,対象が他職種と混合している論文,自己効力感等の他の概念との比較検討を行っている論文とした.対象論文から抽出するデータは,論文内の文章を確認し,OTRのPI形成過程に関する記述の中から,要因を分類したカテゴリー名および強調表示されている語及び文脈のみを対象とした.データを抽出後,KJ法を用いて類似した内容をサブカテゴリーとして整理し,PI形成過程としてカテゴリー化した概念化を試みた.バイアスリスクとして,レビュアーが2名のみであるが,研究者バイアスがかからないよう配慮を行った.
【結果】抽出された論文は43件であった.その中で,今回の条件に合致した論文は5件の論文がデータ抽出のために選択された.また,選択した文献から93の語と文脈が抽出された.《サブカテゴリー》は《職場環境》,《基本的属性》,《社会背景》,《現在の状況》,《自分らしさ》,《業務》,《業務外活動》,《ポジティブな感情》,《ネガティブな感情》,《気づき》,《価値観の変化》,《行動の変化》,《環境の変化》の計13つに抽出された.抽出されたサブカテゴリーをPI形成過程に当てはめて概念化すると,<基盤>,<機会>,<認知>,<変化>の計4つのカテゴリーに分類された.
【結論】4つのカテゴリーから,OTRのPIの形成には,基本的属性,職場環境,現在の状況,社会背景といった基盤が関与しており,業務や業務外活動等のいわゆる機会を通して,ポジティブな感情やネガティブな感情,気づきといった認知を引き起こされる過程があると考えた.最終的には価値観や行動,環境などの変化を起こして新たな基盤を形成する過程があると考えた.この過程を繰り返すことで,OTRとしてのPIが確立していき,効果的な作業療法実践に繋がる可能性が示唆される.本研究では,抽出された論文内での対象者の基本的属性に関する分析をしておらず,PI形成に影響を与える要因に偏りが生じている可能性がある.今後は異なる基本的属性を持つ複数のOTRのPI形成に関する考えを聴取し,本研究の過程と照らし合わせることで,OTRのPIに関する理解が深まると考える.
【参考文献】
1)児玉真樹子,深田博己:生産性に関連する態度や行動に及ぼす職業的アイデンティティの影響.広島大学心理学研究(6):19-25,2006.