第57回日本作業療法学会

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ポスター

理論

[PO-3] ポスター:理論 3

Sat. Nov 11, 2023 2:10 PM - 3:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PO-3-4] 身体障害領域の高齢者における作業との結び付きに関する評価尺度の開発

齋藤 駿太1, 京極 真2, 寺岡 睦2 (1.済生会小樽病院リハビリテーション室 作業療法課, 2.吉備国際大学大学院保健科学研究科)

【はじめに】
 近年,OTの中核概念である作業との結び付き(Occupational Engagement;以下,OE)を評価し,介入を行う重要性が指摘されている.OEとは,作業遂行よりも広い範囲で人と作業との関わりを捉えた概念であり,人が作業にしっかり関与・没頭することができているかの主観的経験を表す.しかし,現状国内の身体障害領域(以下,身障領域)の高齢者に対して,OEを評価できる尺度が存在しない.この問題は,高齢者のOEの状態や変化を適切に捉えられず,評価・介入する上での困難さに繋がると予測される.以上より,本研究の目的は,身障領域の高齢者に使用できるOEの評価尺度(Assessment of Occupational Engagement;以下,AOE)の開発とした.
【方法】
 本研究は尺度研究デザインを採用し,尺度開発の国際基準のCOSMINを参考に実施した.手順1は,OEの構成概念と尺度項目を整理し,表面的,内容的妥当性を検討した.表面的妥当性の対象は,本研究の条件を満たす高齢者3名とし,項目内容の明瞭さ,理解しやすさについて,インタビューを行った.内容的妥当性では,OEの知識を有するOTRの研究者4名と,質的研究に精通するOTRの研究者2名に対して,デルファイ法を用いて内容的妥当性指数を評価し,試作版AOEの作成を行った.手順2は,試作版を使用し,データ収集および因子構造と尺度項目の妥当性と信頼性を検討し,完成版の作成を目指した.対象は本研究に同意が得られ,①身障領域の医療機関に入院し,OTを提供されている65歳以上の者,②既往歴に認知症および高次脳機能障害がない者とした.統計解析は,記述統計量の算出,項目分析,構造的妥当性,併存的妥当性,内的整合性,仮説検証,頑健性の検証を行った.解析ソフトはHAD 16.0,Exametirka 5.5,R 4.2.1を使用した.なお,本研究は吉備国際大学倫理審査委員会(受理番号:21-42)の承認を得ている.
【結果】
 本研究より,2因子15項目からなる完成版AOEが作成された.AOEの実践モデルは,CMOP-Eを中心にMOHO,OS,OTPFなどの要素を参考に検討し,OEの構成概念を,OEの発生要因とOEの促進要因の2因子に設定した.手順1は全2回で終了し,表面的妥当性の結果は良好と判断された.また内容的妥当性は,I-CVIおよびS-CVI/Aveが基準値を満たしたため,2因子15項目の試作版AOEが作成された.なお試作版AOEは,ステップ1:当てはまりの程度,ステップ2:より良くしたいと思う程度の2ステップでの評価方法を採用した.手順2は対象が204名であった.項目反応カテゴリ特性曲線の結果より,ステップ1の5項目,ステップ2の3項目で,4件法の反応に一部課題が残った.しかし,尺度全体の機能として,妥当性(ステップ1:CFI=0.941,TLI=0.931,RMSEA=0.098,ステップ2:CFI=0.960,TLI=0.953,RMSEA=0.098)と信頼性(ステップ1:順序α係数=0.92,ステップ2:順序α係数=0.94)は概ね良好であった.
【考察】
 本研究では,完成版AOEが身障領域の医療機関に入院する高齢者を対象に良好な尺度特性を示した.AOEはOEの発生要因の得点が低いと,OEを発生するための準備,環境が整っていない状態,OEの促進要因が低いと,作業に関与できているという感情や行動が乏しい状態と解釈できる.以上より,AOEは高齢者のOEの程度を評価し,作業ニーズを検討することで,OEを促進するための一助になると考えられる.