第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

理論

[PO-4] ポスター:理論 4

2023年11月11日(土) 15:10 〜 16:10 ポスター会場 (展示棟)

[PO-4-4] 世界の社会文化的文脈における調理の意味:スコーピングレビュー

清田 直樹1,2, 廣瀬 里穂1, ペイター ボンジェ1,3 (1.目白大学保健医療学部 作業療法学科, 2.東京都立大学大学院人間健康科学研究科 博士後期課程, 3.東京都立大学大学院人間健康科学研究科)

【はじめに】
  近年,調理は多くの国や地域で変化をしており,調理の役割におけるジェンダーの平等化や外食産業の発展などの社会文化的影響は,世界的に調理における実践と日常生活の作業に影響を与えている.世界作業療法士連盟は,作業の個人的意味,社会文化的意味の重要性を示しており,特に調理は人間が生きていくために必要不可欠な欲求である食や健康に関連した作業としての重要性が高い.しかし,調理の意味に関して網羅的に調査した研究はほとんどない.
【目的】
  調理の意味に関する知見を文献研究し,調理の意味,調理の意味の特性について既存の知見やギャップを特定することにより将来の研究を特定することとした.なお,本研究の調理とは,献立の立案,食品材料の選択,調理器具の使用,加熱操作の種々の調理操作,盛りつけに至る一連のものとした.
【方法】
  本研究は,スコーピングレビューのガイドラインのPRISMA Extension for Scoping Reviews (PRISMA-ScR)に基づき実施した.電子検索データベースは,PubMed,MEDLINE,CINAHL,OT Seeker,ProQuest,Web of Science, SocINDEX,Embaseの8つを使用した.検索語は,(“occupational therapy” OR “occupational science”)AND (cooking OR “meal preparation” OR “food preparation”)とした.対象期間は,2011年から2022年とした.文献は,重複を削除し,2段階のスクリーニングを実施した.まず,タイトルとアブストラクトからスクリーニングを行い,次に全文を読み適格基準を満たしているかを判断した.2名が独立して行い,適格性における文献の選択について意見の相違があった場合は,協議をし,適格性を判断した.なお,適格基準は,英語で書かれているオンライン上で取得可能な調理の意味に関する研究論文とした.データ抽出は,研究の特徴(発表年,国,研究デザイン等),調理の意味を抽出した.抽出された調理の意味は,テーマ分析(Braun,2006)により,分析し,作業の意味の枠組み(Eakman et al,2018)に基づき分類した.
【結果】
 検索結果は, 8つのデータベースから特定された文献数は1417件となり,重複除外後の文献数は,1311件であった.次に適格性が評価された文献数が79件であった.そのうち56件は除外基準に基づき除外された.最終的に採用された文献数は23件となった.研究が実施された国は,アメリカ8件,カナダ5件,スウェーデン3件,イギリス3件,ニュージーランド3件,スペイン1件,デンマーク1件,タイ1件,シンガポール1件であった.研究デザインは,全て質的研究であった.調理の意味は,29件であった.テーマ分析の結果,《人との繋がり》,《貢献》,《調理方法の習得》,《伝統の継承》,《他者の承認》,《健康》,《アイデンティティ》,《居住地へ適応》,《創造性》,《満足》の10のテーマが特定された.また調理の意味の分類では,半数以上(n=16,55%)は自分らしさに分類された.
【考察】
 調理の意味は,社会文化的文脈と相互作用の強く,個別性の高いため質的研究が選択されたと考えられる.また本研究により多様な意味が抽出されたが,社会文化的文脈における遂行状況が意味に影響を与えることも新たに理解された.そのため質的研究のみならず,遂行能力などの量的データと合わせた混合研究により,深い洞察を得られる可能性があると考えられる.調理の意味は,他者貢献や楽しみといったものより自分らしさを得るあるいは維持することといった調理の意味の特性が明らかになったと考えられる.本研究により調理の意味に関する国内の研究の重要性が示唆された.