第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

基礎研究

[PP-1] ポスター:基礎研究 1

2023年11月10日(金) 11:00 〜 12:00 ポスター会場 (展示棟)

[PP-1-2] 回復期リハビリテーション病棟入院患者の不安がQOLに与える影響

佐貝 拓郎1, 泉 良太2 (1.JA静岡厚生連 遠州病院リハビリテーション科, 2.聖隷クリストファー大学)

【背景】回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期リハ病棟)患者のQOLについては,身体的な満足感は得られても精神面の満足感は得られていないと報告されている(千葉,2013).そのため,回復期リハ病棟患者のQOL向上を図るためには,精神面も配慮することが肝要であると考える.特に不安は過覚醒緊張状態を持続させ,リハビリテーション(以下,リハ)治療の効果を悪化させる(矢崎,2018).精神面の影響は,リハ介入を進める上で重要性は高いが研究報告は少ない.本研究では,回復期リハ病棟入院患者の不安が健康関連QOLに与える影響を明らかにすることにした.
【対象と方法】対象は,当院回復期リハ病棟へ入院した脳血管疾患と運動器疾患とし,既往歴で精神疾患の診断がなく,MMSEが24点以上の者とした.評価項目は,QOLはMOS Short-Form 36-Item Health Survey(以下,SF-36)を用いた.SF-36は健康に関する主観的内容の計36項目で構成される.項目は,身体機能:PF,日常身体的役割機能:RP,体の痛み:BP,全体的健康感:GH,活力:VT,社会生活機能:SF,日常精神的役割:RE,心の健康:MHの8領域に分類される.8領域の下位尺度から身体的健康度:PCS,精神的健康度:MCS,社会的健康度:RCSも算出した.②新版STAI状態-特性不安検査(得点範囲:20-80点)は状態不安と特性不安を評定する.状態不安は特定場面の一時的な不安を示し,特性不安は性格としての不安傾向を示す.評価は入院後と退院前の2回実施した.統計は,二項ロジスティック回帰分析を用いて,従属変数を各退院前QOLの高低群とした.高低群の群分けは中央値を基準とした群分けにした.独立変数は入院後の状態不安と特性不安を交互に代え,年齢,既往歴,BBS,FIM運動の5項目とした.統計ソフトは,IBM SPSS Statistics 24を使用し,有意水準は5%とした.倫理的配慮として,当院の倫理委員会の審査で承認を得て実施した.
【結果】対象は60名(女性48名,年齢78.4±7.8歳,既往歴4.0±2.7,運動器疾患44名,発症から回復期リハ病棟までの入院期間25.1±11.4日)であった.独立変数が状態不安の場合は,MH(オッズ比0.88,95%CI:0.81-0.96,p=0.00),MCS(オッズ比0.93,95%CI:0.87-0.99,p=0.02)で独立して関連性を認めた.特性不安の場合は,SF(オッズ比0.95,95%CI:0.90-1.00,p=0.05),MH(オッズ比0.90,95%CI:0.85-0.97,p=0.00),MCS(オッズ比0.92,95%CI:0.87-0.98,p=0.00)で独立して関連性を認めた.
【考察】MHとMCSに状態不安と特性不安がともに影響を及ぼしていた.回復期リハ病棟へ転院した環境変化に加え,疾患の発症により今後の展望が見えない中では不安が増強され,精神的健康面に関わるQOLへ影響を及ぼしたと考える.対象者は高齢であり,老年期においては年齢を重ねることで不安・焦燥感が前面に出ることが多いと報告されている(太田,2020).不安の介入として認知行動療法(Butler et al,2006)やマインドフルネス(永井他,2016)が効果を示しており,患者の漠然とした不安に対し,教育的に関わる介入が精神的健康面のQOL向上に繋がると考える.SFのみ特性不安が独立して影響を及ぼしたことは,急性期病院で約1ヶ月間を過ごしたことで家族や友人の交流を阻害されたことが,性格傾向として不安を抱きやすかったと推察する.患者のQOLを向上させるためには,リハ治療とともに患者が抱える不安に対する介入が重要であることを強調する.
【結論】不安が精神的健康面のQOLに影響を及ぼしていることが示唆された.OTとして入院当初から患者の不安に対し,具体的な介入や対策を共に考え支援することが重要である.