[PP-1] ポスター：基礎研究 1

[PP-1-4] 尺側指の伸展がつまみ動作時の力制御と手指筋活動へ与える影響

伊達 翔太, 車谷 洋, 砂川 融 (広島大学大学院医系科学研究科上肢機能解析制御科学)

【序論】母指と示指で物体をつまむ際，無意識的に尺側指（中指，環指，小指）を伸展させることがある．しかし，なぜ尺側指を伸展させて物体のつまみ動作を行うのか不明であり，また，尺側指の伸展がつまみの力制御や手指筋群に与える影響も明らかでない．
【目的】本研究は，尺側指の伸展が母指と示指によるつまみ動作時の力制御と手指筋活動に与える影響を調査することを目的とした．
【方法】対象は上肢に神経学的・整形外科的既往のない右利き健常成人17名（男性6名，女性11名；平均年齢21.9 ± 1.0歳）で，課題は右手の母指と示指による指腹つまみ動作を行った．測定肢位は椅子座位，肩関節屈曲外転0°，前腕中間位，手関節軽度背屈位とした．つまむ力は最大努力下でのつまみの5%（5 %Max force）に設定し，デジタルピンチメーターを用いて計測した．課題条件は尺側指伸展位と屈曲位の2条件とした．伸展位条件では尺側指の中手指節間関節と近位・遠位指節間関節を自動運動で完全伸展させ，屈曲位条件では尺側指を軽く握るよう対象者へ指示した．各条件はランダムな順で5回行い，1回あたりのつまみ時間は3秒間とした．筋活動は表面筋電図計にて計測した．標的筋は母指（短母指屈筋，短母指外転筋，長母指屈筋）と示指（第一虫様筋，第一背側骨間筋，浅指屈筋，固有示指伸筋，示指総指伸筋）の筋群，および環指総指伸筋の計9筋で，標的筋の位置同定には超音波エコー装置を用いた．同定した各筋に対して，皮膚研磨等の前処理を行った後，筋腹上に3mmまたは7mmの表面電極を貼付した．力と筋活動データのサンプリング周波数はともに2000Hzとし，電気的に同期させて記録した．得られた力データから，つまみ力，つまみ開始から目標の力に達するまでの時間（以下，到達時間）の平均値を条件ごとに算出した．また，筋活動データから，各筋の筋活動量の平均値を条件ごとに算出した．算出した力の各パラメーターと各筋の筋活動量を尺側指伸展位条件と屈曲位条件で比較した．統計ソフトはSPSS ver.22を用い，条件間の比較は対応のあるt検定またはウィルコクソンの符号順位和検定を行った．有意水準は5%未満とした．なお，本研究は所属機関の倫理審査委員会の承認を得て行い，対象者へ紙面による同意を得た．
【結果】つまみ力は条件間で有意差はなかったが，到達時間は屈曲位条件より伸展位条件で有意に短かった．また，短母指屈筋，第一虫様筋，第一背側骨間筋，浅指屈筋，環指総指伸筋の筋活動量は屈曲位条件より伸展位条件で有意に高値だった．
【結論】つまみ動作時に尺側指を伸展させることで母指と示指の屈筋群の筋活動が増大し，より早く目標のつまみ力に到達することが明らかとなった．以上より，作業療法プログラムで母指と示指でのつまみ動作練習の際には，尺側指を伸展させて行うことで母指と示指の屈筋群の筋活動をより効率的に高め，手指機能の向上や動作の再獲得を促進させる可能性があると考えられた．