第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

基礎研究

[PP-10] ポスター:基礎研究 10

2023年11月11日(土) 14:10 〜 15:10 ポスター会場 (展示棟)

[PP-10-1] 褒める対象の違いが,自己効力感,意欲に与える影響

小山内 隆生, 加藤 拓彦, 田中 真, 和田 一丸 (弘前大学大学院保健学研究科)

【はじめに】
 作業療法では対象者の意欲を高める目的で,正のフィードバックとして褒めることをよく用いる.著者らはこれまで,褒めることの効果について,作業対象に対する興味の強弱,褒める内容の具体性が意欲にもたらす効果について発表してきた.今回は,褒める対象を作品自体に行う場合と作業態度に対して行う場合の意欲の違いについて調査した.
                  【方法】
 研究の趣旨と実験内容の説明を受け,研究参加の同意が得られた弘前大学医学部保健学科の学生36名(男性:11名,女性:25名)を対象とした.対象者は作品を褒める群(以下作品群)12名,作業課題中の対象者の態度を褒める群(以下態度群)12名,作業課題後に何も褒めない群(以下対照群)12名の3条件に無作為に振り分けられた.作業課題は粘土細工とし,作品は犬を設定した.犬には見本がなく,対象者は自由に作成するように要求された.課題固有の自己効力感と意欲の評価は各群の課題前と課題終了後に行われた.課題固有の自己効力感は山田ら(2010)の質問13項目を粘土課題における項目に改変して使用した.この評価表は得点が高いほど自己効力感が高いことを示している.課題に対する意欲の評価はVisual Analogue Scale (以下,VAS)を使用した.統計処理は,統計ソフトEZR(ver1.55)を用いて解析を行った.作業課題前後のSSE合計点,意欲VAS値の比較には,Wilcoxonの符号付順位和検定を使用し,群間のSSE合計点,意欲VAS値の比較には,Kruskal-Wallis検定を使用した.いずれも危険率5%未満を有意とした.なお,本研究は,弘前大学医学部保健学研究科倫理委員会の承認を得て実施した.
                  【結果】
 課題固有の自己効力感は,作品群の課題前の中央値が16(11.5-18.0),課題後が21(18.5-23.5)であり,課題後に有意に向上していた(p<0.05).態度群の中央値は,課題前が15(12.5-17.5),課題後が19.5(18.5-24.0)であり,課題後に有意に向上していた(p<0.05).対照群の中央値は,課題前は15.5(11.5-17.0),課題後は18.0(15.5-21.5)であり有意差は認められなかった.また,各群間に有意差は見られなかった.
課題に対する意欲は,作品群の中央値は,課題前が50.5(43.5-63.5),課題後が72(62.5-81.5)であり,有意に向上していた(p<0.05).態度群の中央値は,課題前が50.0(41.5-62.5),課題後は58(55.0-72.0)であり,課題後に有意に向上していた(p<0.05).対照群群の中央値は,課題前は54(49.0-77.5),課題後は65.0(51.5-86.5)であり,課題後に有意に向上していた(p<0.05).また,群間比較では有意差は見られなかった.
                  【考察】
 今回,作品を褒める場合と態度を褒める場合の自己効力感,意欲への影響を調査した.その結果,自己効力感は両群において課題前よりも課題後で有意な上昇が認められた.そして両群間に違いは認められなかったことから作品や態度の違いに関係なく褒めることが自己効力感を上昇させると考えられた.また,作業に対する意欲は,作品群,態度群,対照群ともに課題後で上昇していたことは,作品を作ったという経験が作品に対する意欲を高めたと考えられた.さらに各群間に有意差が認められなかったことから褒めることは作品に対する意欲の向上には関与しないことが示唆された.
以上のことから,褒めることは課題固有の自己効力感を向上に寄与し,作品制作の経験が作業に対する意欲の向上に寄与することが示唆された.