[PP-11-3] 高齢者におけるボールローリング法の基準値の設定
【はじめに】2つのゴルフボールを手掌で回転させるボールローリングで巧緻性が向上することが報告されている(中村ら,2016).我々はこのボールローリングを巧緻運動の評価として利用するために測定手順(以下,ボールローリング法)を提案し,基本的要件について検討を行ったところ,検者内・検者間信頼性が高いことを報告した(竹下ら,2023).そこで,ボールローリング法を作業療法の臨床で広く利用するために,基準値を設定することが有用であると考えた.
【目的】本研究の目的は,高齢者におけるボールローリング法の基準値を作成することである.
【方法】対象は上肢に運動機能障害や感覚障害のある者を除外したA病院に入院中の高齢患者(27名)と,2県3市で開催された介護予防事業に参加した地域在住高齢者(275名)の計302名とした.調査項目は年齢,性別,利き手に加え,巧緻運動の評価としてボールローリング法を実施した.ボールローリング法は利き手での外回し・内回し,非利き手での外回し・内回しの4パターンの回数を30秒間で測定した.回数のカウントは,2つのボールが半周したら1回,1周したら2回とした.
統計処理では,ボールローリング法における4パターンの回転数の基本統計量を算出した後,各パターン間の差について二元配置分散分析を用いて分析した.基準値は平均値 (mean) と標準偏差 (SD) を用いて「標準」をmean ± 0.5 SD以内とし,「やや劣る」または「やや優れる」をmean ± 1 SD未満,「劣る」または「優れる」をmean ± 1 SD以上とした5段階で設定した.さらに,ボールローリング法の各パターンにおける回転数と年齢の関連性についてSpearmanの順位相関係数を用いて検討した.統計ソフトにはIBM SPSS ver. 28を用い,有意水準は5%とした.倫理的配慮としてA病院とB大学の倫理審査委員会の承諾を得て実施した.その後,対象者には研究参加について口頭と書面で説明を行い,同意書への署名を得た上で実施した.
【結果】対象者の年齢は78.4 ± 5.7歳,性別は女性254名(84.1%),利き手は右利き284名(94.0%)であった.ボールローリング法における4パターンの回転数は,利き手の外回しが14.9 ± 8.0回,内回しが8.7 ± 5.2回.非利き手の外回しが17.0 ± 7.8回,内回しが11.0 ± 5.6回であった.二元配置分散分析の結果,有意な交互作用は認められなかった(F= 0.058, p= 0.81).しかし,測定側 (F= 31.3, p< 0.01) および回転方向 (F= 245.4, p< 0.01) の各要因において,有意な主効果が認められ,非利き手と外回しの回転数が多かった.ボールローリング法と年齢との関連については,有意ではあったが相関はほとんど認められなかった(r= -0.20 ~ -0.13, p< 0.05).
【考察】パターン別にボールローリング法の回転数をみると測定側と回転方向で主効果が認められたため,4パターンの基準値を設定することが必要であると考えた.一方,ボールローリング法と年齢の相関はほとんどなかったため,高齢者をさらに年代別に分けて基準値を設定する必要はないと考えた.以上の点を考慮し,高齢者を対象としたボールローリング法の基準値を提案することができた.
本研究では,男性の参加者が少なく性別による検討ができなかったことや,若年者や中年者のデータについては検討していない.今後これらの対象者を含めた基準値の設定が必要であると考えている.
【目的】本研究の目的は,高齢者におけるボールローリング法の基準値を作成することである.
【方法】対象は上肢に運動機能障害や感覚障害のある者を除外したA病院に入院中の高齢患者(27名)と,2県3市で開催された介護予防事業に参加した地域在住高齢者(275名)の計302名とした.調査項目は年齢,性別,利き手に加え,巧緻運動の評価としてボールローリング法を実施した.ボールローリング法は利き手での外回し・内回し,非利き手での外回し・内回しの4パターンの回数を30秒間で測定した.回数のカウントは,2つのボールが半周したら1回,1周したら2回とした.
統計処理では,ボールローリング法における4パターンの回転数の基本統計量を算出した後,各パターン間の差について二元配置分散分析を用いて分析した.基準値は平均値 (mean) と標準偏差 (SD) を用いて「標準」をmean ± 0.5 SD以内とし,「やや劣る」または「やや優れる」をmean ± 1 SD未満,「劣る」または「優れる」をmean ± 1 SD以上とした5段階で設定した.さらに,ボールローリング法の各パターンにおける回転数と年齢の関連性についてSpearmanの順位相関係数を用いて検討した.統計ソフトにはIBM SPSS ver. 28を用い,有意水準は5%とした.倫理的配慮としてA病院とB大学の倫理審査委員会の承諾を得て実施した.その後,対象者には研究参加について口頭と書面で説明を行い,同意書への署名を得た上で実施した.
【結果】対象者の年齢は78.4 ± 5.7歳,性別は女性254名(84.1%),利き手は右利き284名(94.0%)であった.ボールローリング法における4パターンの回転数は,利き手の外回しが14.9 ± 8.0回,内回しが8.7 ± 5.2回.非利き手の外回しが17.0 ± 7.8回,内回しが11.0 ± 5.6回であった.二元配置分散分析の結果,有意な交互作用は認められなかった(F= 0.058, p= 0.81).しかし,測定側 (F= 31.3, p< 0.01) および回転方向 (F= 245.4, p< 0.01) の各要因において,有意な主効果が認められ,非利き手と外回しの回転数が多かった.ボールローリング法と年齢との関連については,有意ではあったが相関はほとんど認められなかった(r= -0.20 ~ -0.13, p< 0.05).
【考察】パターン別にボールローリング法の回転数をみると測定側と回転方向で主効果が認められたため,4パターンの基準値を設定することが必要であると考えた.一方,ボールローリング法と年齢の相関はほとんどなかったため,高齢者をさらに年代別に分けて基準値を設定する必要はないと考えた.以上の点を考慮し,高齢者を対象としたボールローリング法の基準値を提案することができた.
本研究では,男性の参加者が少なく性別による検討ができなかったことや,若年者や中年者のデータについては検討していない.今後これらの対象者を含めた基準値の設定が必要であると考えている.