[PP-12-1] 嗅覚刺激に伴う主観的快・不快感情とストループ課題における認知機能との関連
【序論】嗅覚刺激は大脳辺縁系に伝達され,感情変化を誘発する.感情やその変化を来しやすい感覚である嗅覚機能は認知機能と関連することが示唆されているが,嗅覚刺激が誘発する感情には個人差があるため,嗅覚刺激による感情変化と認知機能との関係は十分明らかでない.
【目的】本研究では,ストループ課題(以下ST)を用いて嗅覚刺激により誘発される快・不快感情と前頭葉認知機能との関係を明らかにすることを目的とした.
【方法】嗅覚異常と喫煙習慣のない若年女性14名(21.7±0.2歳)を対象とした.まず,嗅覚における検知閾値と認知閾値を嗅覚測定用基準臭(第一薬品産業㈱)により評価した.基準臭の表現は,バラ,カラメル,靴下,ピーチ,糞便であった.対照として無臭の流動パラフィンを用いた.前頭葉認知機能評価のためにSTを実施し,全100問の課題所要時間と誤答数を計測した.意味と色が不一致の色名単語をパソコン画面上に1問ずつランダムに表示し,被験者は文字の色を速く正確に口頭で回答するよう指示された.パソコンキーを押すと,新しい単語が表示されるため,総所要時間は回答速度に依存した.座位で安静後,嗅覚刺激を3分間提示され,続いて30秒間の安静後にSTを実施した.課題終了後は1分間安静後に,Visual Analog Scaleで主観的快・不快度,主観的覚醒度,ニオイ強度を回答した.異なる嗅覚刺激の各プロトコルは同日に5分以上の間隔を空けて,被験者毎にランダムに実施した.嗅覚刺激は提示直前に各被験者の認知閾値濃度の基準臭1種類を試香紙に0.2ml含ませ,刺激内容は明示せず,被験者の鼻下1cmに提示した.嗅覚刺激が主観的感情とST成績に及ぼす影響を,嗅覚刺激の種類に関する一要因の分散分析により解析した.主観的快・不快度と課題成績との関連を検討するためにPearson相関係数を算出した.本研究は広島大学疫学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(許可番号:E-2019-1750).
【結果】快・不快度について,靴下(-2.7±0.3)と糞便(-2.6±0.3)は対照よりも低かったが(いずれもp<0.001),ピーチ(1.2±0.7),カラメル(-0.4±0.6),バラ(0.5±0.5)は対照と差がなかった.靴下と糞便は全被験者に“不快”と回答された一方で,バラ,ピーチ,カラメルは被験者により回答が快と不快に分かれた.覚醒度は糞便においてカラメルや対照よりも高かった.ニオイ強度は各嗅覚刺激で対照よりも高く(いずれもp<0.001),嗅覚認知に十分な強度であり,嗅覚刺激の種類間で差がなかった.ST成績について,靴下と糞便では課題所要時間が対照よりも増加したが(いずれもp<0.05),バラ,カラメル,ピーチでは,課題所要時間に対照との差がなかった.誤答数は嗅覚刺激間で差がなかった.バラ,カラメル,ピーチにおいて,嗅覚刺激が“不快”であった群と“快”であった群ごとに,ST所要時間を調べた.その結果,嗅覚刺激が“不快”であった群では,統計的に有意ではなかったが,どの嗅覚刺激でも所要時間の増加傾向を認めた.嗅覚刺激が“快”であった群では,対照に比してST所要時間が減少するか不変であった.全ての嗅覚刺激において,快・不快度とST所要時間の相関関係を調べると,負の相関を認めた(r=-0.32,p<0.001).
【考察】嗅覚刺激による不快感情の誘発により認知処理速度が低下することが示唆された.一般的な不快臭でなくても,それが個人にとって不快であれば認知処理速度を低下させるが,同じニオイでも不快に感じなければ認知機能を低下させない可能性が示唆される.暴露されるニオイの印象が個人にとってどの程度不快かを把握することは,認知機能低下を予防する観点において重要である可能性がある.
【目的】本研究では,ストループ課題(以下ST)を用いて嗅覚刺激により誘発される快・不快感情と前頭葉認知機能との関係を明らかにすることを目的とした.
【方法】嗅覚異常と喫煙習慣のない若年女性14名(21.7±0.2歳)を対象とした.まず,嗅覚における検知閾値と認知閾値を嗅覚測定用基準臭(第一薬品産業㈱)により評価した.基準臭の表現は,バラ,カラメル,靴下,ピーチ,糞便であった.対照として無臭の流動パラフィンを用いた.前頭葉認知機能評価のためにSTを実施し,全100問の課題所要時間と誤答数を計測した.意味と色が不一致の色名単語をパソコン画面上に1問ずつランダムに表示し,被験者は文字の色を速く正確に口頭で回答するよう指示された.パソコンキーを押すと,新しい単語が表示されるため,総所要時間は回答速度に依存した.座位で安静後,嗅覚刺激を3分間提示され,続いて30秒間の安静後にSTを実施した.課題終了後は1分間安静後に,Visual Analog Scaleで主観的快・不快度,主観的覚醒度,ニオイ強度を回答した.異なる嗅覚刺激の各プロトコルは同日に5分以上の間隔を空けて,被験者毎にランダムに実施した.嗅覚刺激は提示直前に各被験者の認知閾値濃度の基準臭1種類を試香紙に0.2ml含ませ,刺激内容は明示せず,被験者の鼻下1cmに提示した.嗅覚刺激が主観的感情とST成績に及ぼす影響を,嗅覚刺激の種類に関する一要因の分散分析により解析した.主観的快・不快度と課題成績との関連を検討するためにPearson相関係数を算出した.本研究は広島大学疫学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(許可番号:E-2019-1750).
【結果】快・不快度について,靴下(-2.7±0.3)と糞便(-2.6±0.3)は対照よりも低かったが(いずれもp<0.001),ピーチ(1.2±0.7),カラメル(-0.4±0.6),バラ(0.5±0.5)は対照と差がなかった.靴下と糞便は全被験者に“不快”と回答された一方で,バラ,ピーチ,カラメルは被験者により回答が快と不快に分かれた.覚醒度は糞便においてカラメルや対照よりも高かった.ニオイ強度は各嗅覚刺激で対照よりも高く(いずれもp<0.001),嗅覚認知に十分な強度であり,嗅覚刺激の種類間で差がなかった.ST成績について,靴下と糞便では課題所要時間が対照よりも増加したが(いずれもp<0.05),バラ,カラメル,ピーチでは,課題所要時間に対照との差がなかった.誤答数は嗅覚刺激間で差がなかった.バラ,カラメル,ピーチにおいて,嗅覚刺激が“不快”であった群と“快”であった群ごとに,ST所要時間を調べた.その結果,嗅覚刺激が“不快”であった群では,統計的に有意ではなかったが,どの嗅覚刺激でも所要時間の増加傾向を認めた.嗅覚刺激が“快”であった群では,対照に比してST所要時間が減少するか不変であった.全ての嗅覚刺激において,快・不快度とST所要時間の相関関係を調べると,負の相関を認めた(r=-0.32,p<0.001).
【考察】嗅覚刺激による不快感情の誘発により認知処理速度が低下することが示唆された.一般的な不快臭でなくても,それが個人にとって不快であれば認知処理速度を低下させるが,同じニオイでも不快に感じなければ認知機能を低下させない可能性が示唆される.暴露されるニオイの印象が個人にとってどの程度不快かを把握することは,認知機能低下を予防する観点において重要である可能性がある.