第57回日本作業療法学会

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ポスター

基礎研究

[PP-12] ポスター:基礎研究 12

Sat. Nov 11, 2023 4:10 PM - 5:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PP-12-2] 健常者における棒挙上運動が嚥下機能に及ぼす影響

秋本 哲平, 青木 佳子, 松本 麻由子, 渡邉 早紀, 松岡 耕史 (多摩丘陵病院リハビリテーション技術部 作業療法科)

【はじめに】
近年,入院患者の高齢化や疾患の多様化により摂食嚥下機能の低下が認められる患者と作業療法士が関わる機会が増加しており,その需要性も高まっている.作業療法における摂食嚥下障害の間接的訓練として胸部可動域訓練(藤鳥,2001)や体幹機能向上訓練(小泉,2008)が挙げられている.また,日常的に容易に行うことができ,作業療法内でも行われる上肢・体幹へ効果を及ぼす運動として棒体操があり,棒挙上による運動が頸部・肩甲帯の筋群をストレッチングし,姿勢を改善できることが報告されている(太田,2009).さらに,頸部・肩甲帯の姿勢不良改善に伴って嚥下量が増加した報告(山本ら,2015)があり,棒挙上による運動効果が嚥下機能に関連する可能性があるが,その関連性は明らかになっていない.本研究の目的は,棒挙上運動が嚥下機能に及ぼす効果について検証することとした.なお,本報告に関して,対象者に説明し書面にて同意を得て実施した.
【方法】
対象は上肢機能,口腔機能に問題のない健常者12名とした.使用機器は円柱棒(Φ3㎝,長形90㎝,重量600g) ,舌圧測定器(JM-TPM02E)を用いた.棒挙上運動は先行研究の方法に倣い,椅子座位にて,①棒の重量だけの負荷で,ゆっくりと首すじの後ろで上下運動を10回,②棒挙上の最高点で体幹を側屈させ静的ストレッチを6秒間左右3セット行った(太田,2009).頻度は週に4回を4週間継続とした.舌圧測定は介入前,2週間後,4週間後に測定を行った.舌圧は2回測定し,1回目と 2回目の平均値を代表値として分析した.解析方法は,舌圧に関して介入前,2週間後,4週間後において,繰り返しのある一元配置分散分析を行った.さらに,各時期においてBonferroniによる多重比較を用いて検討した.統計学的解析ソフトはIBM Statistical Package for Social Science(SPSS)ver.26を用い,有意確率はp < 0.05とした.
【結果】
対象は12例で,男性5例,女性7例,平均年齢27.5±4.7歳であった.介入時期による舌圧の変化として,介入前(32.3±9.6㎏)から2週間後(38.6±9.7㎏),4週間後(40.8±9.4㎏)と変化し,時期における一元配置分散分析の結果,有意な主効果が認められた(p<0.05).多重比較の結果,介入前から2週間後(p=0.02),介入前から4週間後(p=0.004)で有意な改善が認められた.
【考察】
棒挙上運動にて頸部,肩甲帯へアプローチを行い,4週間の継続介入にて舌圧の変化を認めた.三枝によると¹)舌骨下筋群の筋緊張が緩和することで,舌骨上筋群の機能性を高めるとしている.今回の棒挙上運動にて頸部,肩甲帯におけるストレッチング効果と姿勢改善により,舌骨下筋群の柔軟性が向上したことが,舌骨上筋群の機能性を高め,舌圧の出力変化につながったのではないかと考える.摂食嚥下機能の間接訓練として,容易に行える運動を作業療法内にて効果的に導入することができれば,言語聴覚士と分担した口腔機能アプローチや,高齢化する患者の摂食嚥下機能低下の予防につながると考える.
¹⁾三枝英人.舌骨上筋群の解剖:耳鼻咽喉科展望会 53:4;pp36-43.2010