[PP-12-4] 一側の振動刺激が対側の脊髄前角細胞の興奮性を抑制する経時的効果の検討
【背景】筋緊張抑制を目的とした振動刺激には,様々な刺激方法がある.罹患筋に対応する対側同名筋に振動刺激を与える方法は,罹患筋の運動を妨げない利点がある.しかし,この方法の最適な刺激時間は十分な検討がされておらず,臨床応用するには課題を残している.そこで,本研究の目的は,筋緊張評価の一つであり,脊髄前角細胞の興奮性の指標であるF波を用いて,一側の筋への振動刺激が対側同名筋の筋緊張に及ぼす経時的変化について検討することとした.
【方法】対象は整形外科学的,神経学的に既往歴を認めない健常成人14名(年齢25.2±1.6歳)とした.測定は,安静座位で,右手に振動刺激を与え,左手は,安静時点,振動刺激中の7時点(0-15秒,30-45秒,60-75秒,90-105秒,120-135秒,150-165秒,180-195秒),刺激終了後時点のF波を計測した.振動刺激は周波数80Hz,振幅0.4mm,荷重量400gの刺激を3分間,右短母指外転筋の筋腹上に与えた.F波記録条件は,刺激部位を正中神経,刺激頻度を2Hz,刺激持続時間を0.2ms,分析項目は振幅F/M比とした.統計学的解析は,各時点の振幅F/M比を固定効果とする線形混合効果モデルを実施し,主効果は,安静時点の振幅F/M比を起点としたDunnett検定で各時点を比較した.振幅F/M比における9時点の経時的変化のカットオフ時点は,Receiver operating characteristic(ROC)曲線から感度,特異度,曲線下面積と95%信頼区間(CI)を算出した.さらに,安静時点からカットオフ時点までと,カットオフ時点から刺激終了後時点までの最小二乗回帰式を算出し,傾きを確認した.有意水準は5%とした.なお,本研究は,筆頭演者の所属機関の研究倫理審査委員会の承認を得ている.
【結果】振幅F/M比は,安静時点と比較し,0-15秒時点(p=0.002),30-45秒時点(p=0.024),60-75秒時点(p=0.011)で低下を示し,それ以降の時点で変化を認めなかった.ROC曲線では,カットオフ時点を60-75秒時点と90-105秒時点間にした場合,感度1.0,特異度0.8であり,曲線下面積は0.9(CI 0.681-1.000)で,45°の曲線下面積と比較して有意差を認めた.さらに,安静時点からカットオフ時点までの最小二乗回帰式はf(x)=-0.1093x+1.1357で負の傾き,カットオフ時点から刺激終了後時点までの最小二乗回帰式はf(x)=0.0079x+0.9607で正の傾きを示した.
【考察】本研究で用いた振動刺激は,刺激側の筋紡錘を興奮させ,Ia線維を介して感覚が伝達され,刺激筋に緊張性振動反射を生じる(Eklund et al,1966).加えて,一側のIa線維を介した感覚は,脊髄内で交連介在ニューロンを介し,対側の抑制性介在ニューロンへ接続し,刺激筋に対応する対側同名筋の筋緊張を抑制するとされている(Stubbs et al,2010).しかしながら,刺激筋の緊張性振動反射は20-60秒の間で生じ(Burke et al,1972),60秒以上継続すると,活性化後抑圧によって刺激筋からのIa線維の感覚入力が阻害されると指摘されている(中林,2011 Hultborn et al,1996).つまり,刺激開始から60秒までは,刺激筋からIa線維を介した感覚が入力され,脊髄内で交連介在ニューロンを介すことで,対側同名筋の脊髄前角細胞の興奮性を抑制したため,振幅F/M比が低下したと解釈される.
【方法】対象は整形外科学的,神経学的に既往歴を認めない健常成人14名(年齢25.2±1.6歳)とした.測定は,安静座位で,右手に振動刺激を与え,左手は,安静時点,振動刺激中の7時点(0-15秒,30-45秒,60-75秒,90-105秒,120-135秒,150-165秒,180-195秒),刺激終了後時点のF波を計測した.振動刺激は周波数80Hz,振幅0.4mm,荷重量400gの刺激を3分間,右短母指外転筋の筋腹上に与えた.F波記録条件は,刺激部位を正中神経,刺激頻度を2Hz,刺激持続時間を0.2ms,分析項目は振幅F/M比とした.統計学的解析は,各時点の振幅F/M比を固定効果とする線形混合効果モデルを実施し,主効果は,安静時点の振幅F/M比を起点としたDunnett検定で各時点を比較した.振幅F/M比における9時点の経時的変化のカットオフ時点は,Receiver operating characteristic(ROC)曲線から感度,特異度,曲線下面積と95%信頼区間(CI)を算出した.さらに,安静時点からカットオフ時点までと,カットオフ時点から刺激終了後時点までの最小二乗回帰式を算出し,傾きを確認した.有意水準は5%とした.なお,本研究は,筆頭演者の所属機関の研究倫理審査委員会の承認を得ている.
【結果】振幅F/M比は,安静時点と比較し,0-15秒時点(p=0.002),30-45秒時点(p=0.024),60-75秒時点(p=0.011)で低下を示し,それ以降の時点で変化を認めなかった.ROC曲線では,カットオフ時点を60-75秒時点と90-105秒時点間にした場合,感度1.0,特異度0.8であり,曲線下面積は0.9(CI 0.681-1.000)で,45°の曲線下面積と比較して有意差を認めた.さらに,安静時点からカットオフ時点までの最小二乗回帰式はf(x)=-0.1093x+1.1357で負の傾き,カットオフ時点から刺激終了後時点までの最小二乗回帰式はf(x)=0.0079x+0.9607で正の傾きを示した.
【考察】本研究で用いた振動刺激は,刺激側の筋紡錘を興奮させ,Ia線維を介して感覚が伝達され,刺激筋に緊張性振動反射を生じる(Eklund et al,1966).加えて,一側のIa線維を介した感覚は,脊髄内で交連介在ニューロンを介し,対側の抑制性介在ニューロンへ接続し,刺激筋に対応する対側同名筋の筋緊張を抑制するとされている(Stubbs et al,2010).しかしながら,刺激筋の緊張性振動反射は20-60秒の間で生じ(Burke et al,1972),60秒以上継続すると,活性化後抑圧によって刺激筋からのIa線維の感覚入力が阻害されると指摘されている(中林,2011 Hultborn et al,1996).つまり,刺激開始から60秒までは,刺激筋からIa線維を介した感覚が入力され,脊髄内で交連介在ニューロンを介すことで,対側同名筋の脊髄前角細胞の興奮性を抑制したため,振幅F/M比が低下したと解釈される.