[PP-2-1] 健常成人における実行機能検査時の脳賦活
【緒言】作業療法では,対象者のADLやIADL等の生活行為に介入する.生活行為の遂行には実行機能が関与し,その容量は加齢による影響を受け,健常者であっても個人差があるとされる(Friedman,2017).実行機能の下位組織として,アップデーティング(ワーキングメモリ;WM),シフティング,抑制機能が挙げられ(Miyake,2000),背外側前頭前野(DLPFC)が主要な役割を担っている.
注意機能スクリーニング検査(D-CAT)はWMの要素を含む数字の探索課題であり,3試行(D-CAT①~③)にわたりターゲット数が増加する.D-CAT③は①よりもWM負荷が高く,実行機能の関与が多く含まれる(八田ら, 2015).
本研究の目的は,実行機能検査時の前頭前野の酸素化ヘモグロビン濃度変化(ΔOxy-Hb)を近赤外分光法(NIRS)により計測し,実行機能検査の成績(個人差)とWM負荷に伴う脳賦活の変化を検討することである.
【方法】本研究は各所属機関の倫理審査委員会の承認を得て実施した.対象は十分な説明の上同意の得られた18歳以上の健常成人54名である.実行機能検査(D-CAT①~③)を,各試行60秒,休憩40秒を繰り返すブロックデザインで実施し,検査中のΔOxy-HbをNIRS(Spectratech社製OEG-SpO2)で計測した.関心領域は左右DLPFC,内側前頭極(FP)の3領域とし,Δoxy-Hbを前処理の後加算平均した.45歳以上の対象者を実験群としてD-CATの成績で2群(Low群・High群)に分け,対照群(Control群)を加えた3群について,対象者全体での予備分析の後,3試行×3領域×3群間の分散分析を実施した.有意水準はいずれも5%未満とした.
【結果】対象者は,Low群14名(63.9±10.8歳),High群30名(75.0±6.6),Control群10名(19.8±0.4歳)で,年齢に有意差を認めた(Control群<Low群<High群).予備分析の結果,試行の主効果に有意な傾向(p=0.08)を認め, D-CAT③が②よりも有意に低かった.領域では主効果(p<0.05)を認め, FPよりも左DLPFCが有意に高い結果となった.
3群間の分散分析では,総賦活量には有意差を認めなかったが,領域の主効果に有意差を,また試行×領域×群の交互作用に有意な傾向(p<0.05;p=0.12,検定力0.707)を認めた.交互作用について下位検定を行った結果, D-CAT①ではLow群で左DLPFCが右DLPFCより有意に高く,D-CAT②では,High群で右DLPFCがFPよりも高い傾向にあった. D-CAT③ではHigh群で左DLPFCがFPよりも有意に高く,Control群では同様の傾向があった.
【考察】実行機能は加齢により低下するとされるが,実験群の2群においては, High群がLow群よりも高年齢となる結果となった.予備分析においてD-CAT③では②よりも脳賦活が低くなったのは,ターゲット数に伴うWM負荷の増加により脳が低活性化を示した(Cappell,2010)ことが考えられる.領域において左DLPFCがFPより有意に高い結果となったのは,WM課題では高齢・若年者ともに左DLPFCの神経活動を動員するとした先行研究(Turner,2012)と一致する.
3群間での比較では,脳賦活の総量において有意差を認めず,加齢に伴う灰白質の減少により高齢者では脳賦活が過剰となる先行研究(Di,2014)とは異なる結果となった.交互作用の下位検定の結果から,D-CAT③においてHigh群とControl群では, DLPFCを選択的に使用する(Schneider-Garces,2010)ことが可能であったと考えた.一方,Low群では領域に有意差を認めず,全般的に使用している(Osaka,2004)ことが示唆された.これらの結果より,実行機能の個人差が脳賦活の様相を特徴付けることが示唆され,今後実行機能の障害や脳皮質の変性過程のスクリーニングとして活用するために検討していくことが必要であると考える.
注意機能スクリーニング検査(D-CAT)はWMの要素を含む数字の探索課題であり,3試行(D-CAT①~③)にわたりターゲット数が増加する.D-CAT③は①よりもWM負荷が高く,実行機能の関与が多く含まれる(八田ら, 2015).
本研究の目的は,実行機能検査時の前頭前野の酸素化ヘモグロビン濃度変化(ΔOxy-Hb)を近赤外分光法(NIRS)により計測し,実行機能検査の成績(個人差)とWM負荷に伴う脳賦活の変化を検討することである.
【方法】本研究は各所属機関の倫理審査委員会の承認を得て実施した.対象は十分な説明の上同意の得られた18歳以上の健常成人54名である.実行機能検査(D-CAT①~③)を,各試行60秒,休憩40秒を繰り返すブロックデザインで実施し,検査中のΔOxy-HbをNIRS(Spectratech社製OEG-SpO2)で計測した.関心領域は左右DLPFC,内側前頭極(FP)の3領域とし,Δoxy-Hbを前処理の後加算平均した.45歳以上の対象者を実験群としてD-CATの成績で2群(Low群・High群)に分け,対照群(Control群)を加えた3群について,対象者全体での予備分析の後,3試行×3領域×3群間の分散分析を実施した.有意水準はいずれも5%未満とした.
【結果】対象者は,Low群14名(63.9±10.8歳),High群30名(75.0±6.6),Control群10名(19.8±0.4歳)で,年齢に有意差を認めた(Control群<Low群<High群).予備分析の結果,試行の主効果に有意な傾向(p=0.08)を認め, D-CAT③が②よりも有意に低かった.領域では主効果(p<0.05)を認め, FPよりも左DLPFCが有意に高い結果となった.
3群間の分散分析では,総賦活量には有意差を認めなかったが,領域の主効果に有意差を,また試行×領域×群の交互作用に有意な傾向(p<0.05;p=0.12,検定力0.707)を認めた.交互作用について下位検定を行った結果, D-CAT①ではLow群で左DLPFCが右DLPFCより有意に高く,D-CAT②では,High群で右DLPFCがFPよりも高い傾向にあった. D-CAT③ではHigh群で左DLPFCがFPよりも有意に高く,Control群では同様の傾向があった.
【考察】実行機能は加齢により低下するとされるが,実験群の2群においては, High群がLow群よりも高年齢となる結果となった.予備分析においてD-CAT③では②よりも脳賦活が低くなったのは,ターゲット数に伴うWM負荷の増加により脳が低活性化を示した(Cappell,2010)ことが考えられる.領域において左DLPFCがFPより有意に高い結果となったのは,WM課題では高齢・若年者ともに左DLPFCの神経活動を動員するとした先行研究(Turner,2012)と一致する.
3群間での比較では,脳賦活の総量において有意差を認めず,加齢に伴う灰白質の減少により高齢者では脳賦活が過剰となる先行研究(Di,2014)とは異なる結果となった.交互作用の下位検定の結果から,D-CAT③においてHigh群とControl群では, DLPFCを選択的に使用する(Schneider-Garces,2010)ことが可能であったと考えた.一方,Low群では領域に有意差を認めず,全般的に使用している(Osaka,2004)ことが示唆された.これらの結果より,実行機能の個人差が脳賦活の様相を特徴付けることが示唆され,今後実行機能の障害や脳皮質の変性過程のスクリーニングとして活用するために検討していくことが必要であると考える.