第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

基礎研究

[PP-2] ポスター:基礎研究 2

2023年11月10日(金) 12:00 〜 13:00 ポスター会場 (展示棟)

[PP-2-2] 若年健常者における反復最大握力の持久力の標準値を探る

知名 規人1,3, 小林 量作2,3 (1.新潟リハビリテーション大学医療学部 リハビリテーション学科 作業療法学専攻, 2.新潟リハビリテーション大学医療学部 リハビリテーション学科 理学療法学専攻, 3.新潟リハビリテーション大学大学院リハビリテーション研究科 運動機能科学コース)

【はじめに】最大握力(以下,握力)におけるエビデンスは豊富で,認知機能低下,要介護度,死亡率や疾患罹患との関連が報告されている(Auyeung, et al; 2008, 宮原; 2017, Morales, et al; 2018).一方,握力持久力は日常生活や仕事,スポーツと密接な関係にあるにも関わらず,握力に関連した研究に比べ文献数は極めて少ない.握力持久力の研究では,握力の反復最大運動(以下,反復握力)を1分間に30回のリズム(30bpm)で6分間,計180回実施し,最大強度より70%まで直線的に著しく減少する初期相と,その後,徐々に減少する終期相に分類した報告がある(Nakada, et al; 2007).また,反復握力と膝関節伸展運動の残存率比較および相関係数を求めた研究では,膝関節伸展筋18%の低下に対し,反復握力は30%と大きく低下したこと,両者は有意な相関が認められなかったことが報告された(White, et al; 2013).一方,疾患との関連では,頭頸部がん患者における握力および静的握力持久力は,健常対照者に比べ有意に減少していると報告されている(Kowshik, et al; 2021).このように,握力持久力は実験的研究や一部疾患との関連性について報告が散見されるが,実験条件の違いや,各疾患と比較する際の標準値が不明である.したがって,本研究は若年健常者における反復握力の標準値を明らかにすることを目的とした.
【方法】対象は整形外科疾患および障害を有していない大学生,大学院生の合計40名(男性; 20名, 女性; 20名)である.対象者の身長,体組成,握力および反復握力を測定した.握力は「新体力テスト実施要項(20歳〜64歳)」に従った(文部科学省; 1999).握り幅は被検者が最も力の入れやすい主観的な握り幅に調整した(知名ら; 2022).反復握力はNakadaらの方法に準じて行い,各反復回数の値を開始5回毎の平均値を算出し,最大値で除して百分率に変換した残存率を求めた.統計解析は正規性の確認後,男女比較をマン・ホイットニーのU検定および対応のないt 検定を用いた.なお,統計解析ソフトはR(4.0.2)を使用し,有意水準を5%未満とした.倫理的配慮について,本研究は本学倫理委員会の審査と承認を受けて実施した.
【結果】男性が有意に高値であった項目は握力および握力体重比であった.女性が有意に高値であった項目は反復握力の残存率であった.反復握力は利き手および非利き手の実測値において全ての回数に男女差を認めた.一方,残存率は利き手5回; 男性平均90.6(標準偏差4.7)%, 女性91.8(4.7)%(以下,同順),10回; 79.2(10.0)%, 81.5(7.3)%, 15回; 71.3(9.5)%, 75.0(8.1)%と開始から15回まで男女差は認めず,以降,50回; 50.1(10.8)%, 61.1(7.6)%, 180回; 37.0(9.7)%, 48.7(10.1)%と女性が有意に高値で推移した.
【考察】反復握力の低下は,男性を対象とした先行研究の低下パターンと類似している(Nakada, et al; 2007).残存率は開始15回までの回数において男女差を認めなかった.先行研究では,持続的最大握力と被験筋の酸素動態の関連より,筋力低下の著しい初期相は速筋線維が主に動員されていること,その低下パターンに性差がなかったと報告している(金久ら; 2016).このことから,速筋線維を対象にした持久力は,開始15回までの回数において,男女同一で評価できる可能性が示唆された.
【結論】反復握力実測値は男性が有意に高値であることに対し,残存率は中・後期相から女性が高値で疲労しにくいことが示唆された.また,反復回数15回まで男女同一で評価できる可能性が示唆された.