第57回日本作業療法学会

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ポスター

基礎研究

[PP-3] ポスター:基礎研究 3

2023年11月10日(金) 13:00 〜 14:00 ポスター会場 (展示棟)

[PP-3-1] パフォーマンスの新規学習における心理ストレスと前頭前野の随伴関係

備前 宏紀1, 木村 大介1, 村松 歩2, 水野(松本) 由子2,3 (1.関西医療大学保健医療学部作業療法学科, 2.兵庫県立大学大学院情報科学研究科, 3.大阪大学サイバーメディアセンター)

【背景】心理ストレスが心身に影響し,様々な身体反応が生じる現象を「心身相関」と呼ぶ(鈴木ら,2021).一方,ストレス関連精神疾患の責任部位として前頭眼窩等の前頭前野が重要な脳領域であり(國石ら,2021),パフォーマンスの新規学習には,前頭前野が深く関与するとされている(Y Ota, 2020).これらのことからパフォーマンスと心理ストレス,脳機能の3要素には随伴関係が成立するが,これら随伴関係を同時解析した先行研究はなく未だ未解明の部分が残存する.以上のことから本研究では,パフォーマンスと心理ストレス,脳機能の3要素の随伴関係を明らかにすることを目的とする.得られる知見は多側面から作業療法アプローチを実施する根拠となり得る.
【方法】対象者は健常者19名である.新規学習課題(パフォーマンス)は刺激提示箇所と対応するボタンを押す課題とし,反応速度を記録する実験を行った.脳機能計測にNIRS(日立製作所製OT-R41)を使用し,ターゲットタスクを新規学習課題,コントロールタスクを1-2-3-4と規則的な刺激提示に対して対応するボタンを押す課題を設定した.また,ターゲットタスクとコントロールタスクは各3回試行し,3回のターゲットタスクを加算平均処理し,ターゲットタスク20秒間における各関心領域のOxy-Hb濃度変化を算出した.また,プローブの配置は国際10-20法に準じてホルダーを装着し,関心領域を左右の眼窩前頭野,前頭極(Tsuzuki D, 2007)とした.心理ストレスの評価を測る心理検査としてはストレス反応尺度を実施した.統計解析は左右の前頭眼窩,前頭極から構成される潜在変数を前頭前野,ストレス反応尺度の下位項目から構成される潜在変数を「心理ストレス」として,パフォーマンスへの影響について共分散構造分析にて検討した.モデルの適合度にはGoodness of Fit Index(GFI),Adjusted GFI(AGFI),Root Mean Square Error of Approximation(RMSEA)を用いた.統計解析にはAMOS25を使用した.筆頭著者所属施設倫理委員会の承認を得ている.
【結果】適合度指標はGFI= 0.863,AGFI= 0.740,RMSEA= 0.000であり,適合度は許容できる水準と判定された.心理ストレスからパフォーマンスへの標準化係数は0.15,前頭前野からパフォーマンスへの標準化係数は-0.08であった.また,心理ストレスから前頭前野への標準化係数は-0.11,心理ストレスから前頭前野を介してパフォーマンスのへの間接効果は-0.0088であった.
【考察】「ストレスと前頭前野」,「前頭前野とパフォーマンス」のそれぞれの関連性は,先行研究で既に明らかにされている.具体的には,継続的で過度なストレスは前頭前野の情動制御機能に影響を与え,精神疾患を誘発すること(國石ら,2021),また,パフォーマンスの新規獲得には,前頭前野機能が重要であること(Patel, R 2013)などが報告されている.本研究で得られた新たな知見はストレス状態が前頭前野を介してパフォーマンスに影響を及ぼすという3要素間の随伴関係を明らかにしたことである.パフォーマンスには身体機能の影響が大きく心理ストレスと前頭前野だけで全てのパフォーマンスを説明することは困難である.しかし,ストレス状態は直接的にパフォーマンスに影響を与えるだけでなく,脳機能にも影響を及ぼしパフォーマンス低下を招く可能性があることを念頭に,作業療法士は身体機能のアプローチと並行して心理面にも適切なフィードバックを付与することで効率的に新規パフォーマンスが獲得できる可能性が高まると考えられる.