第57回日本作業療法学会

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ポスター

基礎研究

[PP-3] ポスター:基礎研究 3

2023年11月10日(金) 13:00 〜 14:00 ポスター会場 (展示棟)

[PP-3-2] 座位姿勢の違いは健常成人の運筆のパフォーマンスと頭部移動距離に影響するか

牛膓 昌利1, 窪田 聡1, 古舘 卓也1, 笹田 哲2 (1.国際医療福祉大学小田原保健医療学部作業療法学科, 2.神奈川県立保健福祉大学大学院保健福祉学研究科)

【はじめに】
字を書く時の椅子座位姿勢は,書写教育において小学校低学年で指導される(全国書写書道教育学会,2009).いわゆる望ましい座り方が教育される一方で,発達障害等がある子どもでは学習中に座位姿勢を保持することが難しい場合がある.特に,座位での上肢操作時の頭部運動制御に困難があると考えられる(Elders et al, 2010).また,椅子の背もたれへの寄りかかりの有無が筆記の質に与える可能性が報告されているが(Pade M et al, 2016),下肢の肢位が異なる姿勢条件については詳細に検討されていない.そこで本研究では,座位姿勢条件の違いが運筆のパフォーマンスと頭部の移動距離に与える影響について検討した.
【方法】
対象者は10名で,20歳代前半の女性,右利き,平均身長157.9±3.4cmであった.計測条件は,座位姿勢は3条件(A:望ましい姿勢,B:下肢屈曲姿勢,C:下肢伸展姿勢)とした.運筆課題はトレース課題を採用し,タブレット型PCを用いた上肢機能協調性評価システム(TraceCoder®, システムネットワーク)を使用した.計測は反射マーカーを各身体部位9か所に貼付して4台のビデオカメラで撮影した.解析は三次元動作解析システム(Frame-DIAS 6, Q’sfix)を使用した.アウトカムは,頭部の相対移動距離(前額面,矢状面)とした.頭部の相対移動距離は胸部と両肩を結ぶ平面を原点として,開始時点から終了時点までの変化量を求め,身長(m)で除した値とした.運筆のパフォーマンスは,正確さの指標としてトレース課題のはみ出した面積の合算値(はみだし総面積)及び筆圧の平均値とした.統計解析は座位姿勢の3条件についてフリードマン検定を用いた.統計ソフトはIBM SPSS Statistics 26を使用した.本研究は所属機関の倫理審査委員会の承認後,対象者からインフォームドコンセントを得て実施した(21-Ig-137).
【結果】
座位姿勢の条件A,B,Cの順に中央値[四分位範囲]を示す.頭部の相対移動距離(単位:mm)は,前額面はA:11.6[5.6-20.3], B:18.3[11.2-33.9], C:12.5[7.0-22.4], 矢状面はA:16.0[10.4-28.1], B:16.5[6.6-22.5], C:20.3[10.3-27.4]であった.運筆のはみ出し総面積(単位:mm2)はA: 11.5[8.7-16.5], B:10.6[7.6-22.0], C:12.6[8.1-19.4],筆圧(単位:N)はA:2.83[2.25-3.69], B:3.17[2.18-4.33], C:2.86[1.97-3.94]であった.全項目で3群間に統計学的な有意差は認めなかった.
【考察】
本研究における座位姿勢の条件は,下肢の肢位と体幹前後傾の角度が主に異なる点であった.下肢屈曲位姿勢では体幹が前傾し,前面の机に上肢や体幹で支持点が得られることにより座位の安定が増し,頭部の相対移動距離や運筆の正確さに影響すると予測していた.しかし,健常成人では座位姿勢の条件間で明らかな差が示されなかった.その理由として,姿勢制御と手の巧緻動作が発達学的に成熟している健常成人では,トレース課題自体が容易であり,運筆のパフォーマンスと動作中の頭部運動に大きな影響を与えなかった可能性がある.また,本研究の教示条件には時間の制約を設けていなかったことも影響していると考えられる.今後は,定型発達児や運筆に困難さがある子どもを対象とした場合や,課題の難易度と時間制約下での条件について検討する必要がある.