第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

基礎研究

[PP-3] ポスター:基礎研究 3

2023年11月10日(金) 13:00 〜 14:00 ポスター会場 (展示棟)

[PP-3-3] 1/f ゆらぎとリズム音楽聴取における前頭葉機能評価

原 和子1, 石塚 和重1, 大星 有美1, 山下 一郎2 (1.岐阜保健大学リハビリテーション学部, 2.豊田マネージメント研究所)

【背景】1/f ゆらぎを含む音楽(以下,ゆらぎ音)は,副交感神経を優位にし,心身に鎮静効果をもたらすとされている.我々は,ゆらぎ音を「パワーが周波数f に反比例する調和ある不規則性(Wikipedia)」と定義し,小川のせせらぎ音,鳥のさえずりなどの自然現象例を参考にオリジナル楽曲を用意,認知神経系への影響を調べ,作業療法レシピのための段階づけに向けた予備的研究に着手した.一方,比較のためにリズム音楽を取り上げた.リズムとは,共有できる拍,音符,メロディ,コードにより,人間同士の合奏が可能になる概念で,主に西洋の音楽理論に基づいている.
【目的】ゆらぎ音は鎮静,リズム音楽は覚醒効果に貢献すると仮説をたて,近赤外線分光法 (functional near-infrared spectroscopy, NIRS)を用いて,前頭葉領域の賦活測定から検証する.加えて,適切な検証方法の可能性を探索する.
【方法】①健常女性(平均年齢64±13.6)10名を対象に,課題曲としてゆらぎ音とリズム音楽をプロの音楽家(認定音楽療法士)がオリジナルに作曲し,生演奏(ギター)にてランダムに3分間聴取するよう設定した.課題曲聴取中はNIRSにて前頭葉領域のOxy-Hbを測定した.測定方法は安楽な座位姿勢にて,安静2分,聴取3分,安静2分の順でNIRSを計測した.測定機器は,Model :Spectratech OEG-16を用いた.プローブの設置は,脳波測定基準10-20法を参考にチャンネル(以下Ch)の位置を前頭部に装着した.
②ゆらぎとリズム課題曲聴取時の唾液中コルチゾール,α-アミラーゼを聴取前後で比較した.測定機器は,ニプロ唾液アミラーゼモニターを用いた.
③音楽に関する経験,興味などを簡単に聞き取り調査した.
【結果】①ゆらぎ音で,前頭葉のOxy-Hbは,多くのChで有意に低下,リズム音楽聴取時は有意に増加した.ゆらぎ,リズム音楽共に聴取後の反応は速かった.
②ゆらぎ音楽聴取後の唾液中コルチゾール,α-アミラーゼは聴取前と比較し,有意に低下した.
③ダンスを続けている被験者は,ゆらぎ音,リズム音楽共に身体も動くなど,覚醒効果が高いように見受けられた.一方,リズム音でも軽睡眠状態となる被験者が観察された.
【考察】前頭葉領域は,社会性や情動性を伴う行動のコントロールやヒト特有の様々な環境刺激に対する適切な反応の促進および抑制とメタ認知能力,高度な注意機能を担う領域である.ゆらぎ音は前頭葉領域の賦活を抑え,心を落ち着かせ,ストレスに関連する唾液中アミラーゼを低下させ,自律神経の鎮静効果を有する可能性が示唆された.リズム音楽は,ゆらぎ音より身体の動きを誘うと同時に,前頭葉の賦活を引き出す可能性があると考えられた.今後の課題として,ゆらぎ音,リズム音楽に対する反応は,音楽経験,興味関心など個人の生活歴,環境との相互作用といった影響因子によって個別性を示す可能性が示唆された.音楽聴取後の生体反応は速かったが,効果持続性についても課題である.作業療法としてのより具体的な活動の段階づけと適応に向けて,音楽に関する個人の意志,環境,経験との関係等構成的評価による調査を含める必要性が提起された.
【倫理手続き】「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に則り行なった.