[PP-5-1] スマートフォン依存症傾向の学生における黙読課題中の心的負荷および前頭皮質の脳活動
【はじめに】スマートフォン依存症(スマホ依存)は,スマートフォンの使用により様々な問題が生じているにも関わらず,その使用を止められない状況である.スマホ依存は学生などの若者の有症が多く,依存度が高いほど学力が低いことが報告されている(Hawi & Samaha, 2016).スマホ依存がどのような機序で若者の学力に悪影響を及ぼすのか解明されていないが,スマホ依存度が高い学生では学習課題中の脳活動に変化が生じる可能性が想定される.
【目的】本研究は,スマホ依存傾向の大学生における黙読課題中の心的負荷および前頭皮質の脳活動の特徴を明らかにすることを目的とした.
【方法】対象は右手利きの大学生とし,事前にスマートフォン依存スケール短縮版でスマホ依存度が高い学生16名(男性4名,女性12名:依存群)と低い学生14名(男性6名,女性8名:非依存群)に群別化した.計測では,両群の学生が約60秒間の黙読課題を行った.課題は新聞の社会欄のコラム記事とした.黙読課題の開始前には被験者のスマートフォンを机上に設置した.黙読課題の中間には机下から擬似的に着信音を鳴らし,被験者には課題を継続するように教示した.本研究では,課題中の心的負荷としてNASA-TLX,脳活動として機能的近赤外分光分析法(fNIRS)を用いた.NASA-TLXは黙読課題終了後に課題中の心的負荷の大きさを評価した.fNIRSは8チャンネルを前頭部に設置し,データは各チャンネルの酸素化および脱酸素化ヘモグロビン濃度を測定した.fNIRSは黙読課題の開始前に平仮名黙読中の脳活動を記録し,黙読課題中から平仮名黙読中のデータを差分した後,擬似着信音の前10秒間および後2秒から12秒までの10秒間の平均値を算出した.統計解析は,被験者内の比較をウィルコクソンの符号付順位検定,群間の比較をマンホイットニーのU検定にて分析した.有意水準は危険率5%とし,p値はボンフェロー二法にて補正した.本研究は,所属機関の倫理委員会の承認を得た後,全対象者にインフォームド・コンセントを得た.研究実施に際しては,対象者の個人情報保護に留意した.
【結果】心的負荷について,依存群は非依存群よりもNASA-TLXのフラストレーションが大きかった.脳活動について,黙読課題中のスマートフォンの擬似着信音の前後において,非依存群は左前頭中央部の酸素化ヘモグロビン濃度が上昇し,両群とも前頭中央部の脱酸素化ヘモグロビン濃度が低下した.また,擬似着信音後において,依存群は非依存群よりも左前外側部の脱酸素化ヘモグロビン濃度が高かった.
【考察】スマホ依存では,スマートフォンが手元に無い状態では不安が大きいことが報告されており(Elhai et al, 2016),本研究結果では黙読課題中の擬似着信音が依存傾向の学生の心的負荷を大きくした可能性がある.また,本研究では,スマホ依存傾向の学生は,非依存傾向の学生と比較して,擬似着信音後の言語野の脳活動が小さかった.fNIRSを用いて読書課題中の干渉刺激後の脳活動を調べた研究では,言語野の脱酸素化ヘモグロビン濃度が低下することが報告されている(Midha et al, 2021).本研究結果より,スマホ依存傾向の学生は,学習課題中のスマートフォンの着信音に対して,言語野の脳活動の応答が小さいことが示唆された.本研究は,スマホ依存のある若者が学習課題中に呈する困難さを明らかにする可能性がある.
本演題発表に関連するCOIはない.
【目的】本研究は,スマホ依存傾向の大学生における黙読課題中の心的負荷および前頭皮質の脳活動の特徴を明らかにすることを目的とした.
【方法】対象は右手利きの大学生とし,事前にスマートフォン依存スケール短縮版でスマホ依存度が高い学生16名(男性4名,女性12名:依存群)と低い学生14名(男性6名,女性8名:非依存群)に群別化した.計測では,両群の学生が約60秒間の黙読課題を行った.課題は新聞の社会欄のコラム記事とした.黙読課題の開始前には被験者のスマートフォンを机上に設置した.黙読課題の中間には机下から擬似的に着信音を鳴らし,被験者には課題を継続するように教示した.本研究では,課題中の心的負荷としてNASA-TLX,脳活動として機能的近赤外分光分析法(fNIRS)を用いた.NASA-TLXは黙読課題終了後に課題中の心的負荷の大きさを評価した.fNIRSは8チャンネルを前頭部に設置し,データは各チャンネルの酸素化および脱酸素化ヘモグロビン濃度を測定した.fNIRSは黙読課題の開始前に平仮名黙読中の脳活動を記録し,黙読課題中から平仮名黙読中のデータを差分した後,擬似着信音の前10秒間および後2秒から12秒までの10秒間の平均値を算出した.統計解析は,被験者内の比較をウィルコクソンの符号付順位検定,群間の比較をマンホイットニーのU検定にて分析した.有意水準は危険率5%とし,p値はボンフェロー二法にて補正した.本研究は,所属機関の倫理委員会の承認を得た後,全対象者にインフォームド・コンセントを得た.研究実施に際しては,対象者の個人情報保護に留意した.
【結果】心的負荷について,依存群は非依存群よりもNASA-TLXのフラストレーションが大きかった.脳活動について,黙読課題中のスマートフォンの擬似着信音の前後において,非依存群は左前頭中央部の酸素化ヘモグロビン濃度が上昇し,両群とも前頭中央部の脱酸素化ヘモグロビン濃度が低下した.また,擬似着信音後において,依存群は非依存群よりも左前外側部の脱酸素化ヘモグロビン濃度が高かった.
【考察】スマホ依存では,スマートフォンが手元に無い状態では不安が大きいことが報告されており(Elhai et al, 2016),本研究結果では黙読課題中の擬似着信音が依存傾向の学生の心的負荷を大きくした可能性がある.また,本研究では,スマホ依存傾向の学生は,非依存傾向の学生と比較して,擬似着信音後の言語野の脳活動が小さかった.fNIRSを用いて読書課題中の干渉刺激後の脳活動を調べた研究では,言語野の脱酸素化ヘモグロビン濃度が低下することが報告されている(Midha et al, 2021).本研究結果より,スマホ依存傾向の学生は,学習課題中のスマートフォンの着信音に対して,言語野の脳活動の応答が小さいことが示唆された.本研究は,スマホ依存のある若者が学習課題中に呈する困難さを明らかにする可能性がある.
本演題発表に関連するCOIはない.