第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

基礎研究

[PP-5] ポスター:基礎研究 5

2023年11月10日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (展示棟)

[PP-5-4] 眼球-頭部協調運動における課題特性による違い

秋田谷 結奈1,2, 田中 悠希1,2, 中村 裕二3, 中島 そのみ3, 仙石 泰仁3 (1.札幌医科大学大学院保健医療学研究科, 2.札樽すがた医院リハビリテーション部, 3.札幌医科大学保健医療学部 作業療法学科)

【はじめに】視覚は人間が外界の情報を取得するうえ最も重要な機能である.眼球-頭部協調運動は動く対象物を把握する,中心視野に対象物を適切に捉え注意を持続するといった日常生活を送る上で必要な機能の基盤となっている.眼球-頭部協調運動に関連する先行研究は散見されるものの,現状では,眼球-頭部協調運動に関する共通した見解は少なく,身長や性差等の個人特性,対象物の位置の違い等の課題特性による整理も行われていない.そこで本研究では,眼球運動と頭部運動の分担比(以下,分担比)という観点から,単純な追視課題の分担比に対して視覚探索課題と分類課題の分担比がどのような傾向があるかを明らかにし,課題特性が眼球-頭部協調運動課題に与える影響を明らかにすることを目的とした.
【方法】対象者は,20代から30代の健常成人5名(男性4名,女性1名)で,口頭にて同意を得たうえで実施した.対象者には頭頂部に加速度センサー(共和電業)及びゴーグル型の眼球運動計測装置(竹井機器工業;Talk Eye Lite)を装着してもらい,3種類の課題を実施した.追視課題では左右に動く視標の追視を行い,視覚探索課題では検者が読み上げる数字に合わせて視覚探索を行った.また,分類課題では中央に表示されるターゲットの色を確認した後に,該当する箇所の指差しを実施した.それぞれの課題において,頭部は固定せず自由にした状態で行った.測定項目は水平方向の眼球運動(角度),頚部の回旋運動にて波形の変化が認められた頭部X軸加速度,頭部Y軸加速度とした.それぞれの課題を1試行ずつ実施し,それらの結果から眼球運動量及び頭部運動量,眼球頭部協調運動時の眼球運動・頭部運動分担比を算出した(眼球運動量/頭部運動量).眼球運動・頭部運動分担比については,基本的な眼球頭部協調運動である追視課題を元とした際の割合として算出した.なお,本研究は筆頭著者の所属先の倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号;30-2-45).
【結果】眼球運動量・頭部運動量には被験者内・被験者間ともに一定の傾向は認められなかった.個々人の追視課題を基準とした眼球運動・頭部運動分担比では,視覚探索課題において1.11/1.89(頭部X軸/頭部Y軸)で眼球運動優位の方略をとり,分類課題において0.47/0.70(頭部X軸/頭部Y軸)となり頭部運動優位の方略をとるという結果となり,視覚探索課題と分類課題での大きな違いが認められた.また,被験者ごとの分析結果でも,視覚探索課題では5人中4人の被験者で頭部X軸・Y軸のいずれかの値の増加,分類課題では5人の被験者全員で頭部X軸・Y軸のいずれかの値の減少が認められ,被験者に共通した特徴が観察された.
【考察】本研究では,眼球-頭部協調運動における眼球運動・頭部運動を用いた課題特性の検討を行った.結果より個人に特有の追視課題における眼球運動・頭部運動分担比を基準とすると,視覚探索課題は視覚運動優位,分類課題では頭部運動優位の方略を共通してとっていることが明らかとなった.これは視覚探索課題では追視に比べより多い視線移動が必要であったために,眼球運動優位であった(藤森ら,2001),認知負荷の増大する状況では有効視野が狭窄し,頭部運動が増加する(茅原ら,2020)といった先行研究における知見とも一致する結果であった.今後,パーキンソン病のような神経変性疾患患者や眼球運動に苦手さが認められる発達障害児等において,健常成人とどのように異なるパターンを示すかを明らかにする上で,今回の測定・分析方法が有用であると考えられた.