[PP-6-1] 連合性ペア刺激が聴覚誘発電位に及ぼす影響
【背景・目的】
加齢や疾患に伴う記憶力の低下によって日常生活が障害される.そのため,記憶障害のリハビリテーションにおいては,いかに記憶力の低下を防ぎ,日常生活場面に応じて必要となる新たな情報を記憶するかという視点が重要になる.
記憶に関する研究では,視覚刺激よりも聴覚刺激の方が記憶されやすいことが知られている(Takahashiら, 2012).また,聴覚刺激が繰り返し提示されることで,記憶に関する神経回路の伝達効率が変化することが知られている. 近年,聴覚刺激と一次運動野への経頭蓋磁気刺激を組み合わせた連合性ペア刺激によって,発話に関連する舌や口唇の運動関連領域におけるシナプス伝達効率が変化すること(Paul ら, 2014)や,聴覚刺激と側頭葉への経頭蓋磁気刺激を組み合わせた連合性ペア刺激によって聴覚誘発電位の興奮性が変化することが示唆されている(Schecklmannら, 2011).
しかし,過去の研究においては聴覚刺激に「Hey!」などの感動詞や純音を用いて検討した報告が多く,意味を有する名詞などを聴覚刺激として用いた連合性ペア刺激が聴覚誘発電位に及ぼす影響については明らかになっていない.もし,名詞を用いた連合性ペア刺激が聴覚誘発電位に及ぼす影響を明らかにすることができれば,記憶障害のリハビリテーションへの応用が期待できる.そこで今回,我々は聴覚刺激に名詞を用いた連合性ペア刺激が聴覚誘発電位に及ぼす影響を検証することとした.
【方法】
健常成人を対象とした.聴覚刺激には,独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センターによる記憶障害に対する学習カリキュラムの中から,使用頻度の高い名詞の音声「新聞」を採用した.音声はApple社の日本語テキスト読み上げ機能を用い,右耳に装着したイヤホンを介して30 dbの音量で対象者に提示した.
聴覚誘発電位は,国際10-20法のCzに脳波電極を貼付し,聴覚刺激を1~1.5秒の間隔で50回提示した.聴覚刺激提示から200 msまでの脳波成分におけるpeak-to-peak振幅を連合性ペア刺激の実施前後で求めた.
連合性ペア刺激のための経頭蓋磁気刺激コイルは,Schecklmannら(2011)の手法に倣って国際10-20法のT3とCzを結ぶ線上でT3から上方2.5 cm,後方1.5 cmの位置に固定した.そして,音声刺激の45 ms後に強度60%の経頭蓋磁気刺激を行う連合性ペア刺激を0.1 Hzの頻度で200回反復した.
なお,本研究実施に当たり,東京家政大学健康科学部倫理委員会の承認(健2019-10)と対象者の文書による同意を得た.
【結果】
聴覚誘発電位の加算平均値は,連合性ペア刺激の実施前で3.79 μV,実施後で5.84 μVであり,連合性ペア刺激の実施前に比べて実施後における聴覚誘発電位が増加した.
【考察】
名詞を用いた聴覚刺激と側頭葉への経頭蓋磁気刺激を組み合わせた連合性ペア刺激によって聴覚誘発電位が増加した.過去の研究では,純音を用いた聴覚刺激と連合性ペア刺激によって聴覚入力に応答する神経活動が変化する(Sarahら, 2017)ことが示唆されている.今回の結果から,名詞を用いた聴覚刺激と側頭葉への経頭蓋磁気刺激を組み合わせた連合性ペア刺激によっても聴覚刺激に対する応答が変化することが示唆された.しかし,本研究では聴覚誘発電位の変化が記憶に及ぼす影響についての検討を行っていない.今後は,聴覚刺激を用いた連合性ペア刺激による聴覚誘発電位の変化が記憶に及ぼす影響についてさらに検討していく必要がある.
加齢や疾患に伴う記憶力の低下によって日常生活が障害される.そのため,記憶障害のリハビリテーションにおいては,いかに記憶力の低下を防ぎ,日常生活場面に応じて必要となる新たな情報を記憶するかという視点が重要になる.
記憶に関する研究では,視覚刺激よりも聴覚刺激の方が記憶されやすいことが知られている(Takahashiら, 2012).また,聴覚刺激が繰り返し提示されることで,記憶に関する神経回路の伝達効率が変化することが知られている. 近年,聴覚刺激と一次運動野への経頭蓋磁気刺激を組み合わせた連合性ペア刺激によって,発話に関連する舌や口唇の運動関連領域におけるシナプス伝達効率が変化すること(Paul ら, 2014)や,聴覚刺激と側頭葉への経頭蓋磁気刺激を組み合わせた連合性ペア刺激によって聴覚誘発電位の興奮性が変化することが示唆されている(Schecklmannら, 2011).
しかし,過去の研究においては聴覚刺激に「Hey!」などの感動詞や純音を用いて検討した報告が多く,意味を有する名詞などを聴覚刺激として用いた連合性ペア刺激が聴覚誘発電位に及ぼす影響については明らかになっていない.もし,名詞を用いた連合性ペア刺激が聴覚誘発電位に及ぼす影響を明らかにすることができれば,記憶障害のリハビリテーションへの応用が期待できる.そこで今回,我々は聴覚刺激に名詞を用いた連合性ペア刺激が聴覚誘発電位に及ぼす影響を検証することとした.
【方法】
健常成人を対象とした.聴覚刺激には,独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センターによる記憶障害に対する学習カリキュラムの中から,使用頻度の高い名詞の音声「新聞」を採用した.音声はApple社の日本語テキスト読み上げ機能を用い,右耳に装着したイヤホンを介して30 dbの音量で対象者に提示した.
聴覚誘発電位は,国際10-20法のCzに脳波電極を貼付し,聴覚刺激を1~1.5秒の間隔で50回提示した.聴覚刺激提示から200 msまでの脳波成分におけるpeak-to-peak振幅を連合性ペア刺激の実施前後で求めた.
連合性ペア刺激のための経頭蓋磁気刺激コイルは,Schecklmannら(2011)の手法に倣って国際10-20法のT3とCzを結ぶ線上でT3から上方2.5 cm,後方1.5 cmの位置に固定した.そして,音声刺激の45 ms後に強度60%の経頭蓋磁気刺激を行う連合性ペア刺激を0.1 Hzの頻度で200回反復した.
なお,本研究実施に当たり,東京家政大学健康科学部倫理委員会の承認(健2019-10)と対象者の文書による同意を得た.
【結果】
聴覚誘発電位の加算平均値は,連合性ペア刺激の実施前で3.79 μV,実施後で5.84 μVであり,連合性ペア刺激の実施前に比べて実施後における聴覚誘発電位が増加した.
【考察】
名詞を用いた聴覚刺激と側頭葉への経頭蓋磁気刺激を組み合わせた連合性ペア刺激によって聴覚誘発電位が増加した.過去の研究では,純音を用いた聴覚刺激と連合性ペア刺激によって聴覚入力に応答する神経活動が変化する(Sarahら, 2017)ことが示唆されている.今回の結果から,名詞を用いた聴覚刺激と側頭葉への経頭蓋磁気刺激を組み合わせた連合性ペア刺激によっても聴覚刺激に対する応答が変化することが示唆された.しかし,本研究では聴覚誘発電位の変化が記憶に及ぼす影響についての検討を行っていない.今後は,聴覚刺激を用いた連合性ペア刺激による聴覚誘発電位の変化が記憶に及ぼす影響についてさらに検討していく必要がある.