第57回日本作業療法学会

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ポスター

基礎研究

[PP-7] ポスター:基礎研究 7

Sat. Nov 11, 2023 10:10 AM - 11:10 AM ポスター会場 (展示棟)

[PP-7-2] 筋痛性脊髄炎/慢性疲労症候群当事者による作業の選択・継続に影響を与える要因

田島 明子1, 國塚 裕太2, 山田 孝3 (1.湘南医療大学保健医療学部, 2.聖隷訪問看護ステーション三ヶ日, 3.一般社団法人日本人間作業モデル研究所)

【はじめに】筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(以下,ME/CFS)は,軽度の労作後に重度の身体的・精神的疲労が生じ,強い全身倦怠感,微熱,頭痛,筋肉痛,脱力感,思考力の障害,睡眠障害等を伴う病気とされ原因不明である.ME/CFSをめぐる質的研究のメタアナリシスでは,患者固有のテーマとして,アイデンティティの変化の経験,物理的・社会的・経済的な関わりの減少等が挙がっており,ME/CFS当事者の経験に近づくために,時間軸を重視し,どのような外的な影響を受けながら作業の選択・継続がなされたかを辿ることが重要であると考える.また,本研究では作業の選択・継続に興味が影響していることに着目した.興味は時間を占有する作業を決める重要な要素である.興味の拡がりが青年期の自己形成や職業選択に影響を与えるが,しかし生きるなかで興味を抱き継続的に行うようになった作業を障害や病のために喪失することもある.そして,再び興味を生成することで新たな作業選択がされる.診断がつきづらく体調が変化しやすいME/CFS当事者にとってそれがどのような過程であるかは明らかではない.本研究では,ME/CFS当事者の仕事選択・継続に注目をし,選択・継続の過程とその要因を質的記述的研究により明らかにすることを目的とした.【対象と方法】対象:A氏,40代,女性.大学生のときにME/CFS様の症状に見舞われる.以後,良くなったり悪くなったりを繰り返しながら,仕事の転職を繰り返し,10年が経過したところでME/CFSの診断を受けた.方法:SNSで対象者を募り,協力の申し出を得た.インタビューは,インタビューガイドを用い,半構成的に実施した.インタビュー回数は3回であり,1回1時間程度であった.分析方法:複線径路等至性モデリング(以下,TEM)を用いた.TEM の特徴として,人間を解放システムとしてとらえるシステム論に依拠し,個人に経験された時間の流れを重視する点があるため本研究の目的に適っていると判断した.TEM図を描く概念ツールと本研究の事象を適合させた.興味生成のレーダーチャートを用い,興味生成に関わる6要素(「これでよいと思える納得感がある」「自分らしく過ごせている」「満足感がある」「楽しかったり嬉しいと思える」「障害経験は自分の強みと思う」「今の作業に希望を感じる」)を5件法で点数化した.【倫理的配慮】所属機関倫理審査委員会にて承認を得た後に実施した(承認番号:医大研倫第21-033号).【結果】A氏は医療系大学生時にME/CFS様の症状に見舞われ,4回転職していた.TEM図作成においては,症状の変化を必須通過点(OPP),仕事選択を等至点(EFP),離職を分岐点(BFP)とし,等至点から分岐点に至る過程の促進要因(SG),阻害要因(SD)を明らかにした.また,興味生成レーダーチャートは各々の就職時と離職時の状況を回顧的に点数化した.TEM図を基にA氏のライフヒストリーと仕事1か所目から現在継続している4か所目のストーリーを明確化した.興味生成レーダーチャートの点数は,仕事1か所目:就職時25点(平均4.17)→離職時11点(平均1.83),仕事2か所目:就職時13点(平均2.16)→10点(平均1.67),仕事3か所目:就職時23点(平均3.83)→6点(平均1点),仕事4か所目:就職時23点(平均3.83)→26点(平均4.33)(仕事継続中)【考察】身体状況と仕事内容の調整の不在は作業の継続の阻害や症状の悪化のリスクとなる,障害や病の存在を肯定し,それを中心に据えて社会の変容にベクトルを向けられる環境は興味ある作業の選択・継続を促進する可能性があると考えられた.