第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

基礎研究

[PP-8] ポスター:基礎研究 8

2023年11月11日(土) 11:10 〜 12:10 ポスター会場 (展示棟)

[PP-8-1] 結婚や出産を経験した女性作業療法士がワークスタイルを確立するまでのプロセス

高橋 慧, 齋藤 佑樹 (仙台青葉学院短期大学リハビリテーション学科 作業療法学専攻)

【緒言】
 女性の労働力率は,20代半ばと50代前後の2箇所にピークがあり,出産や育児を機に一旦職を離れ,育児が終わった後に復職する人が多いことを示している.作業療法士(以下,OT)業界においても,31歳〜35歳で女性の割合が激減している.OT業界で30代は,中堅からベテランに位置づけられる年齢層であり,この層の多数が職を離脱している現状は,自身のキャリアロスになるだけでなく,職能団体にとっても大きな損失である.そこで本研究では,結婚や出産等のライフイベントを経験しながらも,仕事と家庭を両立し,ワークスタイルを確立している女性OT1名(32才,経験年数8年)を対象に,質的研究手法を用いてワークスタイル確立に必要な要因について探索することを目的とした.尚,本研究は,仙台青葉学院短期大学研究倫理審査委員会の承認(承認番号:0319)を経た後,対象者に対しヘルシンキ宣言に則り研究内容について十分に説明を行い同意を得た.また,本研究の実施において,COI関係にある企業等はない.
【研究デザイン・方法】
 人間の成長を時間的変化と文化社会的文脈との関係の中で捉え記述するための方法論である複線径路等至性モデリング(Trajectory Equifinality Modeling:TEM)を用いた質的研究とした.実施に際しては質的研究のための統合基準チェックリスト(Consolidated criteria for Reporting Qualitative research;COREQ )に準拠した.インタビューガイドは,対象者と家族,職場との相互交流を明らかにすることができるよう,研究代表者・分担者が協議し質問項目を設定した.インタビューは,対象者の同意を得た上でICレコーダーに録音した.初回インタビュー終了後,ICレコーダーに収集したデータから逐語録を作成した.研究分担者と逐語録を精読した後,対象者のこれまでのキャリアをまとめ,TEM図を作成した.2回目以降のインタビューでは,試作したTEM図を対象者に提示し,研究者の解釈に不足や誤りがないかを確認しながら,トランスビュー的飽和状態(お互いの認識に齟齬がない状態)に至るまで計4回のやりとりを行いTEM図を完成させた.
【結果】
 事例は出産や子育て等のライフイベントにおいて,家族の理解や社会資源,職場の福利厚生等の恩恵を受けており,それらがワークスタイルの確立に寄与していた.他方,未経験の領域に興味をもち,過去に2回転職を考えたことがあったが,1度目は結婚直前だったこと,2度目は子育てとの両立に不安を感じたことを理由に転職を諦めていた.事例は子育てをしながら学会発表なども精力的に行っており,客観的には順調にキャリアを歩んでいるように見えていたが,実際には顕在化しない多くの「葛藤」「我慢」「妥協」があることがわかった.さらには,職場から遠回しな表現で早期復職を求められ,予定期間満了前に復職するなど,伝統的かつ間接的な圧力を受けていたことが明らかとなった.
【結語】
 結婚や出産等のライフイベントを経験しながらも,仕事と家庭を両立し,ワークスタイルを確立している女性OTを対象に,ワークスタイル確立に必要な要因について探索した.今後は,本研究の結果を踏まえてインタビューガイド等の見直しを行うとともに,更に事例数を増やし分析を重ねながら,望ましいワークスタイルを構築するために必要な要素や解消すべき障壁について明らかにしていく必要がある.